寮会議

「今から寮会議を始めるぞー。」

時刻は3時。学校はお昼前に終わったから4時間ほど経つ。どうやら寮の利用者で会議を毎日するみたい。いつもは夜食の頃にするそうなんだけど、今日は初回だということもあってこの時間からやるそう。

「つってもお前ら3人しかいないしなぁ。そんな会議っつーほど難しい事はしねぇ。今日あった事と明日の予定、それと知らせる事があったら知らせる程度に思ってくれたらいい。1人ずつ発表する事だ。日高もこの2人ならある程度は話せそうか?」

頷く。

「そうやって少しずつ慣れていったらそのうち話せるようになるんじゃないか?お前ら2人も人と話すん好きじゃないだろ?情報共有しなさそうだしな。他人と足並み合わせるのも覚えろよ?」

的確である。

「今日は別にいい。寮の使い方とルールを教えないといけんらしいからな。」

「これを読んでくれ。」

渡された紙は…

寮のルールと使い方と書かれた5枚綴りのプリントである。

「はい。2ページ目ー」

"寮では仲良くすること。仲良くするには協力が必要です。食事、洗濯、買い出し、掃除。就寝以外の生活は協力して行うこと。"

つまり…3人で家事を分担するってこと?

「見てのとおりだ。お前らは特に協調性が無い。無いもん同士、協力してみろ。苦戦するだろうが、それも勉強だ。」

「ラッキーな事に日高がいる。女子ってのは家事をして無くてもお前らよか上手いもんだ」

「頼りにしてるからな?確か料理とか作れただろ?」

正義が頼りにしてくれてる。

「うん。任せて。」

「そいつはありがたいな。全部コンビニとコインランドリーで済まそうと思ってたんだがな」

「お前も協力するんだぞ?」

すかさず正義が口を挟む。

「…一々言われなくても分かってる。」

ふてくされる石田君。

もう少し仲良くしてくれないかな…3年間一緒に過ごすんだし…

「はい、3ページ目ー。」

"朝はランニング。夜には勉強をする時間を取ること。"

「もちろん3人一緒にな。言わなくても分かるとは思うが学生の本文は勉強だ。ほんでまあ高校の寮だし?健康的な生活送らんといけんからな。飯食ったらやるように。ルートやらスケジュールなんかは最後のページに付けてある。」

「はい。4ページ目ー。」

"楽しむこと。その為に必要な労力や資金は申請してくれると出します。"

「まあ、そうだな。3人しかいないんだ。ほんで新設校ってのもあって金と人力が余ってる。やりたい事あるなら言え。なんでもいい。面白そうなら俺も手伝ってやる。」

「なんでも…だな?」

「そうだな。基本的には何でもいいぞ。一応言っておくが、個人的な物は無理だからな?全員で楽しめるもの、役立つものに限る。申請通すから見たら分かるけどな。」

「理解しました。」

「了解だ。」

「分か…した。」

「良し。んなもんだ。実んところ紙にまとめる程の量でも無いんだがな。しっかり頭に入れてもらうためにもこうやって書いた。短い分、覚えられるだろ?基本は協力して好きにやりゃあいい。」

…楽しそうである。やっぱりここに来て良かったな。

「以上だ。スケジュールはそこらにも貼っておく。基本俺はいないもん扱いでいいが、飯は作ってくれ。」

「何故?俺達がつくるのか?」

「かてぇこと言うなよ。その分、サポートしてやる。何でも言いに来い。それでいいか?」

「…分かった。」

石田君は中々固いようである。いや、固いのは知ってる。

「まだ仕事あんだよ、くそだりぃ…夕飯頃…7時には帰る。それまでは好きにしろ。買い出し行くならそこの金使え。領収書もらえよ。じゃな。」

のろのろと重そうな足取りで学校へと向かう先生。担任に寮長で大変そうである。

「どうするんだ?」

時刻は3時半。買い出しに行くには少し早いですが…

「あの…」

「どした?」

正義と石田君がこちらを見る。

「ちょっと…周り。探検、したいかも。」

正義は少し驚いているようだ。

「佳乃が自分の意見言うなんてな。」

「それは馬鹿にしすぎだ。日高だって人間だぞ?」

鼻で笑うように石田君が口を挟む。

「普段は意見を言わないんだよ。俺は1年半ほど佳乃を見てきたから言ってるんだ。馬鹿になんか、してねぇ。」

「見てきた期間が全てじゃ無いだろ。こうやって第三者だからこそ見える真実だってあるんだ。俺は少なくともお前が日高を対等に見ているように思えない。」

「んだと?何が分かるんだ?佳乃が意見を出せるようになった事に俺は成長を感じてだな」

「成長を感じる?お前は誰目線で語ってんだ?日高の親にでもなったつもりか?同い年なのによ。」

「…俺は…」

まだ、言い合いは続きそうだ。…もう、見てられない。

「…や。」

「喧嘩しちゃ…や。らから。」

「喧嘩じゃない。聖が日高を馬鹿にして」

「や!なの!」

2人の動きが止まる。私も自分の声に驚く。こんな大きな声を出したのは何年ぶりだろうか…

「せいぎは…ばかにしてない。ボクをたすけて…くれてるだけなの。ボク、ひとりじゃ、なにもできなかったから。せいぎはひっぱってくれてたの。」

「だから、せいぎ、わるくないの。ボクがいきなりへんなこと、いうから…」

「そんな事は無い…日高は何も悪くなかった。すまない。」

「正義。ボク、これからがんばるから。だから、みてて?」

「…分かった。佳乃の頑張りを俺は…見守ってる。」

「2人とも。謝ろ?」

「悪かった。俺は少々佳乃に頼られる事で調子に乗ってたのかもしれない…」

「…俺は間違った事は言ったつもりは無い…が、お前らの繋がりを馬鹿にしたのは謝る。すまない。」

「はやく、お外、行こ?」

「「ああ…」」

私達は…3人で生活するんだから。喧嘩しちゃ、駄目、なんだから。

多少重い空気のまま、近所を探検する為に玄関に向かうのであった。


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