恐怖の質問タイム
「日並には悪いが、これでひとまず終いだ。詳しい事は明日から説明していく。疲れただろうし、今日は終わりだ。5人に対して激しい質問攻めをしないように」
「分かってますよぉ」「やだなぁせんせぇ」
妙に甘ったるい声で話す生徒達。時折こちらを見る。
…忘れてた。絶対に質問攻めに遭う気がする。
すると正義が小声で私に囁く。
「トイレの位置は分かるか?」
「うん。どうして?」
受験の際に緊張しすぎてトイレに何度も行ったのでしっかり覚えているまである。
「そこで待ってろ。逃げるぞ。」
「…分かった。」
「それじゃ、解散。」
先生が出て行くのに合わせて私も動き始める。先生がいる内は流石に近づいて来ないだろう…
そして、先生と私が教室のドアをくぐった瞬間にゾロゾロと動く気配を感じる。
その瞬間
「ちょっといいか?少しだけでいい。」
正義がクラスメイトを呼び止める。その隙に私もそそくさと去っていくのである。
トイレと職員室は同じ方向だ。隣を歩く山田先生がボソッとつぶやく。
「…日高。多分お前…こっから地獄だぜ?」
「…?」首を傾げる。
「多分あいつらのさっきの言葉。励ましでも
「…ぇ」
「まあもうちょいしたらお前も実感するんじゃないか?これは大変な3年間になりそうだ…ってな。」
「…ぅ」
「精々気ぃ付けな。今日だけは廊下走っても許してやら」
どういう事だろうか??…ホントに可愛いと思って叫んでくれたのかな…恥ずかしいやら嬉しいやら。
「んじゃな。明日無事に会える事楽しみにしてるぜ?」
そういって職員室に入っていく先生。どうしてさっきからそんな物騒な物言いをするんだろうか?
よく分からないけど、皆にプラスの気持ちを持ってもらっているなら嬉しい事だ。明日もがんばろ。
トイレに着く。しばらくすると誰か歩いてくる。石田君…だったかな?
話すな危険である。話しかけて貰いたくないみたいだし、ここはぼーっと外を眺めてる風でやり過ごそう…
「おい。お前。」
案外田舎暮らしも良いものである。外を眺めるだけで気持ちが落ち着いてくる。
「聞こえてんのか?」
今日だけでも色々あったなぁ。こんなに泣いて、笑った1日は久しぶりかも。
「無視か。いい度胸だな。」
というか天使とかってのも本気で言ってたのかな?恥ずかしいなんてものじゃ済まないぐらいの事言ってるよね…
「ったく。」
肩を…叩かれる。びっくりし過ぎて変な声が出る。
「へぅっ!?」
何故か石田君がいた。いや、さっき出会ったんだけど話し掛けるなって言ってたしそのまま行ったものだと…
「お前に忠告してやろうと思ったんだがな。よくもそんなに俺を無視できるな?」
「…ぇんさい」
人の言葉に見えないだろうけど、これでもごめんなさいと言ったつもりなのである。
「…まあいい。俺はお前の都合に合わせるつもりは無い。好きな様に話させてもらうぞ。」
「1つ。どうやら俺とお前は同じ寮に住んでいるらしい。静かにしていてくれればなんでもいい。」
「2つ。聖…だったか?アレはもうちょい飼い慣らしておいた方がいい。飼い主として躾がなってないんじゃないか?」
「3つ。多分時間は無い。そろそろ来るぞ。俺からは以上だ。」
それだけ言うとさっさと歩いていってしまった。
「ら。」
ら、しか出なかったけど理解してくれたみたいだ。
「ああ。またな。」
結局良い人なのかもしれない。物言いはストレートだけど、私の声が出ない事へは悪い事を言わなかった。
気難しい人なのかも。…いつか、友達にしたいな。
正義が何かしたのかな?飼い主ではないけど、後で聞いておこう…
というか3つ目の忠告は何だったんだろうか?
そう考えてると教室の方が騒がしくなってきた。そっと目線を向けると…
鬼の形相で正義が走って向かって来ている。
少しとはいえ正義から離れていたのは正直心細かった。ゆるゆると手を振る。
「佳乃!全力で走れぇぇぇぇぇ!!」
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お話は変わりますが、皆様ゾンビ映画
私は身をもって実感した。
「日高さぁぁん、少しだけで良いのでお話しませんかぁぁ!?」
「悪いようにはしないからさぁ!」
「ちょっとだけだよー?」
はい。クラスメイト全員が廊下を所狭しと全力で迫ってきている訳。怖いなんてもんじゃあ事足りない。あまりの気迫に体が動かないもん。
「佳乃ぉ!止まってると終わりだぞ!」
正義の一言でやっと体が動く。のろのろと動き出して、5歩目には全力疾走。
実は運動神経の良さには自信がある。全力で走りつつ、後ろを見る。
…何と言う光景だろうか。笑顔で走って来ているのも充分怖いのだが、ほとんどの生徒が参加している事がもう恐怖。
「佳乃!前だ、前!」
ハッとして前を見てももう遅い。迫りくる壁に精一杯止まるが、止まらずに激突。
数秒して正義が駆け寄ってくる。
「大丈夫か!」
クラスメイトもみんな不安げにこちらを見ている。
あまりの不憫さと恥ずかしさに私は…
「ふぇぇぇ…」
情けない声を出しながら涙をこぼしつつ玄関に走り去って行ったのであった…
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