第二章 その十七 ココアの味
突然のヂーミンの言葉に唖然とする美玲。美玲はそこで初めて両親がこの街に来たいきさつを聞く事となった。
「お父さんとね、お母さんは、昔悪い人達の所で働かされていたんだ。そこから逃げてこの街に来たんだ。この街の人達、美玲も知ってるね?皆に助けられて、守られて今まで生きてこれただけど。ちょっとね、今更なんだけど、良くない事あってね。」
ヂーミンがそこまで話すとエミリの顔が一層暗くなった。ヂーミンは続ける。
「お父さん達が逃げてきた所の悪い人、麗華の事件でお父さん達の事見つけちゃってね。台湾コミュニティの人を脅してきたみたい。お父さん達の昔の仕事も、マスコミにバラすって脅してきたんだ。」
美玲は黙って聞いていた。
「お父さん達の事はどうでもいいんだ。でも美玲は違う、この街の人達も違うよ。お父さん達の事で辛い思いさせちゃダメだ。だからね、家族でこの街出ようと思うんだ。知らない街で、また名前変えて、生きて行こうと思うんだ。」
そこまで聞いて、美玲は両親2人を見つめ直した。
「麗華の事件は、どうするの?」
するとその質問にはエミリが答えた。
「分かるよ、美玲の気持ちは。お母さんもね、麗華の事が解決するまでは、って気持ちはあるの。・・・でもね、この街にいるのも辛いの。家にいてかも、街に出ても、そこらじゅうに麗華の思い出があって。・・・犯人が憎い。でもそんな事よりも麗華が居ない事が・・・。」
そう言ってお母さんは泣き崩れた。美玲にもその気持ちは痛い程伝わっていた。エミリの肩を抱きながらヂーミンが続きを話す。
「お父さんも麗華の事は、分かるよね?でも、一生懸命考えて、今、生きてる人達の幸せが大事なんだって思う。だから、お母さんと美玲がこの先幸せに暮らす為に、もう一度別の街でね、やり直した方が、いいんじゃないかって。」
そう言ってお父さんは膝に置く拳を握りしめた。美玲にもその気持ちは痛い程伝わっていた。
しかし美玲は決めていた。
「分かった、そうしよう。でもね、アタシはこの街に戻ってくる。」
ヂーミンとエミリは驚きもせず美玲を見返す。そして2人笑顔になった。
「やっぱりね、美玲はそう言うと思ってたよ。」
父の言葉に美玲も笑顔になった。母も笑顔でうなづいた。両親共に娘の事はお見通しだったのだろう。
「大変だよ、美玲。美玲なら大丈夫だと思うけど、今よりもっとお母さん達のせいで色んな事言われたり、嫌な事されたりすると思うけど。それでも戻ってくるの?」
答えはわかっているが敢えて聞くと言った感じでエミリが問うと、美玲は元気にうなづいた。
「大丈夫!お父さんとお母さんは安全なトコに居て!むしろアタシが居ない方が目立たないと思うし、そのまま夫婦でのんびり過ごしてよ。アタシはこの街に戻ってアタシのやらなきゃいけない事やるよ。」
父はうなづいた。
「分かった。美玲は大丈夫だね、お父さんとお母さんの娘だから。でも本当に危なくなったり、辛くなったらお父さん達の所に逃げてくるんだよ。」
その言葉からは娘に対する大きな信頼と親として当然の心配があった。しかし美玲はそれを全て解決出来る自信を持って答えた。
「アタシは大丈夫!この街で『最強』になったから!!」
美玲の口の中にはホットココアの味が広がっていた。
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