第二章 その十五 タトゥーの女
「両腕にタトゥーの女?」
新屋敷の言葉に聞き返す美玲、そんな人物に心当たりは無かった。しかしほぼ初めて見せる新屋敷の真顔は明らかにそれが重要な事だと物語っていた。
「・・・そうか、知らないっぽいな。・・・じゃあ、いいけど。ただ、もしそんな奴に気付いたら気を付けな。」
「どう言う事?その人、アタシの事知ってるの?それとも麗華の知り合いなの?」
この状況で出る話題なのだ、麗華の事件にも関わっている話なのだろう。美玲は詳しい内容を聞かなければならないと思い質問をぶつけた。
「いや、妹さんと知り合いだったかは分かんない。ただ、・・・うーん。どうすっかな。」
少しいつもの笑顔に戻り歯切れの悪い言い方をする新屋敷。「いいから教えて。」と美玲が言うと、また真顔になり「俺の推測だらけの話になっちまうけど。」と前置きをして語り始めた。
「俺は妹さんの事件がどうにも赦せなくてさ、ちょっとツテを使って調べてたのよ。そしたらどうやら事件現場から『タトゥーの入った女が歩き去る所』が監視カメラに映ってたらしいんだわ。」
初めて聞く情報だった。警察の話では目撃情報など無く、犯人の手掛かりらしき物は何も見つかっていないはずだった。監視カメラ?
「あの現場のすぐ20mくらい離れた表通りにさ、ベトナム料理店あるだろ?あそこの地下さ、『裏カジノ』なんだよ。だから入口の下り階段の上ん所に隠しカメラ設置してあるんだわ。そこに映ってたと。・・・商売柄そんな証拠あっても警察にゃ出せねぇしさ、俺はあのビルのオーナーと仲良いから聞けたし、実際にその映像も見た訳なんだけどさ。」
「見た?!見たのそれ!?」
新屋敷は笑顔に戻り「うん。」と言って笑った。
「体型から女ってのは分かるんだ。ただフード被っててさ、顔が分からんのよ。ノースリーブの黒いレザーみたいなフード付きのベスト着てて、肩から手首にかけてトライバルタトゥーみたいのがビッシリ入ってんだ。最初袖かと思ったけど、あれはタトゥーだな。
犯行現場はあそこらへんの店が出すゴミ捨て場だったろ?犯人が東方面に逃げたんならまず川にぶつかるし、あの辺は夜中まで風俗目当ての奴らが歩いてる。警察が確認出来る監視カメラも橋の所にあるしな、西側に行きゃ駅だしよ、目撃者がいるとすりゃ南側のあの通りしか無いんだよ。そこに映ってたのがその女さ。」
「それ、警察に言ったの?」
美玲が当然の疑問を口にすると新屋敷は申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。
「いや言ってない。申し訳無いけどあのビルのオーナーには結構世話んなっててさ、ビルには迷惑かけないって条件でビデオ見せてもらったんだ。裏切る訳にゃいかんのよ。それに、妹さんの事件担当してる警察ってのも・・・あんまり頼りにならん奴らでね。」
確かに、担当刑事もその補佐的な若い刑事も会ったが頼りない印象と態度の悪さばかりが目立っていた。かと言って貴重な情報、このままにしておいていいものなのだろうか。
「でも、何とか捜査に役立ててもらえたりしないのかな。今の所その女しか怪しい人いないんでしょ?そのビルのオーナーには悪いけど、犯人見つける方がどう考えたって重要、って言うか・・・。」
「そうな。情報源を隠して警察に言うって言う手もあるんだろうけど、だけどその程度じゃ動くはず無ぇし。何よりその後がな。」
「その後?」と美玲が聞くと新屋敷の笑顔は更に困惑の色が混ざったものに変わった。
「無いんだよ、その女のその後が。カメラに映ってたビルの前の通り、女の歩いて行った方向にさ駐車場あるだろ?あそこは車上荒らしがかなり多くて監視カメラも数台あるし、24時間体制でスタッフもいるだろ。そこにその女の情報が無いんだよ。」
その駐車場はもちろん美玲も知っている。三叉路の角にあり、信号と街灯に照らされた夜でも比較的開けた明るい場所だ。そこで目撃者がいない?
「分かるだろ?『消えて』んだよ、その女。その前後どこでも見られてねぇ。唯一居たってのが分かるのがあのベトナム料理屋の前だけなんだ。事件に関係してようがしてなかろうが、どう考えても普通じゃねぇんだこれが。警察に言えない理由はここが大きいかな。」
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