第二章 その三 美玲と麗華

数年後、エミリとヂーミンの姿は関東にある有名な商店街『神明ロード』にあった。


各地を転々とした二人だったが、この街に辿り着いた時突如エミリの妊娠が発覚する。

エミリは不安だったが、ヂーミンは手放しで喜び、「もうこの街で暮らそう」と言ってくれた。


幸い神明ロードには台湾系のコミュニティがあり、二人を心良く迎えてくれた。ヂーミンは食肉業者のドライバーの仕事を紹介され、二人の生活は初めて落ち着いた。


ヂーミンは王志明(おう ふみひろ)と名乗り、コミュニティの力を借りてエミリと夫婦として暮らせるようになる。

コミュニティのメンバーだけでなく、街の人達は二人にとても良くしてくれた。神明ロードに落ち着いた年にめでたく女の子が産まれ、その三年後にはまた女の子が産まれた。

長女の名前は美玲(めいりん)、次女の名前は麗華(りーふぁ)と名付けられた。


温かい人々に囲まれ、親子は幸せな生活を送っていた。外国人が多いこの街で二人の娘も虐められる事も無く、すくすくと元気に育っていった。


姉の美玲は芯の強い性格。妹を守る為かとにかく隙を見せないようにしていた。小学校に入ると自ら親に願い出て古流空手を習い始める。道場でもめきめきと頭角を現し、地元のローカルテレビ局が『天才空手少女』と取材に来る程であった。

その噂が流れると近隣のケンカ自慢が男女問わず美玲に闘いを挑んでくるようになったが、例外なく男女共に闘わずして帰っていった。その理由は美玲の『美しさ』にあった。

母親譲りの美しさに加え相手を見透かすような眼差しは、子供とは思えない程の冷たい魅力を放っており、対峙した途端『何故か闘ってはいけない』と言う心理にさせてしまう。中学卒業を待たずして美玲は神明ロードの伝説となった。


一方妹の麗華は真逆の性格だった。何をしても不器用で、日がな一日漫画とアニメばかり、スポーツの類いは一切出来ず、「勉強してればいいよね」と好きな漫画とアニメを楽しむ為の口実に勉強だけは真面目にこなしていた。


両親はこの真逆に育っていく娘達に全力で愛情を注ぎ、暗い過去を思い出す事など無くなっていったのだった。

エミリは街の婦人服のリサイクルショップで働き続け、ヂーミンは食肉業者の運送部の責任者にまで出世した。普通の家族にもあるような小さないさこざはあったものの、美玲と麗華も高校を卒業し、姉の美玲はアパレルショップで働き始め、妹の麗華はアニメーターを目指し専門学校に通い始めた。


そしてある日、麗華は死体で見つかった。

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