第一章 その九 神様

店を出た私と鳴神は、新屋敷に言われた通り遠回りをしてアパートに向かっていた。


「あ、やべ。」


鳴神が立ち止まり、ゆっくりと後ろを振り返る。


「どうした、鳴神。何か来てるか?」


私も慎重に振り返ったが、怪しい存在は見当たらない。


「・・・遠回りしたら、クレープ買えねぇじゃねぇか。」


「お前バカか!!」


「何だとてめぇ!俺を飢え死にさせるつもりか!?」


「新屋敷に言われたろ!まだあのコンビニに鬼がいて、私の存在に気付かれでもしたらやりにくくなるだろ!」


ちなみに新屋敷は私の存在を認識しているが、見えたり話せたり出来ている訳じゃない。鳴神からの説明で居る事は分かっているだけだ。


「マスター気にしすぎなんだよ。あれがさっきテレビ映ってた鬼の仕業だとしてだ、犯人がいつまでも現場にいるか?それにお前みたいなどこにでもいる幽霊なんか鬼からしたら興味も無ぇし、顔だって憶えたりしねぇよ。」


「お前今、全員に失礼な事言ってるぞ。」


「コンビニ寄らねぇと酒も買えねぇ。こっち廻りで帰ったらクレープも買えねぇ。そもそも遠い。」


言うや否や鳴神はUターンし、いつもの帰り道のルートに向かって行ってしまった。


「待ておい!」


神様、もしいらっしゃるなら教えて下さい。何故あんなバカにあんな能力を与えられたのですか・・・。


「しかし、死んでも神様っているかいないか分からないものなんだな。」


そして私のこの独り言も、目の前を歩くあのバカにしか聴こえていないのだ。

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