第一章 その八 あやかし専門の喧嘩屋
深夜3時、ドワーフ閉店。
あの後リナッパは夜の仕事を休んだ。いつもは閉店までいるツユもリナッパを送ると店を出て行った、落ち着いたらツユがリナッパに話を聞いておいてくれるそうだ。
「例のコンビニで従兄弟が働いている」と言っていたサラリーマンの一人に、それとなく新屋敷が話を聞くと、やはり彼の従兄弟の働くコンビニが現場だと連絡がついたそうだ。
『エルマーズ神明ロード北店』
まさに鳴神が出勤途中にタバコを吸ったあのコンビニだ。と言う事はあの時すでに老人の頭部はすぐ近くにあったと言う事なのか?
閉店後の掃除をしながら新屋敷が口を開く。
「まぁ、いつもの流れだとウチに来るだろうが、まさかこんな近所でなぁ。とりあえず準備はしとくけど、話が来るまでは動かなくていいぞハナイチ。」
確かにこんなに近所と言うのは初めてかもしれない。
「それとな、今日はエルマーズの前通って帰るな。遠回りになるけど、坂田さんが気付かれたら今後動きにくくなるかもしれんからな。」
「分かりました。」と返事をして鳴神は拭き終わったグラスを置いた。
「じゃ、マスター、『依頼』来たら連絡下さい。とりま7時くらいまでは起きてるすから。」
そう言うと鳴神と私は店を出る。
『依頼』。
こんなダメバーテンダーがドワーフをクビにならないもう一つの理由がこれだ。
鳴神花一のもう一つの顔、それは説得も除霊も祓いも効かないあやかしを力づくで捻じ伏せる、
『あやかし専門の喧嘩屋』だ。
何故そうなったかの経緯はいずれ話す事として、今はそれがどんな仕事なのかと言う方だけ説明しよう。
まずCafe&Barドワーフにももう一つの顔がある。それは『あやかし専門喧嘩屋の窓口』だ。顧客は一般人から警察、役所、裏社会の者まで多岐に渡る。
そしてドワーフに依頼が来るという事はそれだけで彼らにとって最終手段を意味するのだ。
先刻、「あやかしの分類」の事は軽く触れたが、それらあやかしが関わる様々な問題は『説得』『除霊』『祓い』の3つの方法で大抵は沈静化する。
例えば先に説明した『幽霊系のあやかし』が何か悪さをしていたとなれば、何故そんな事をするのかを聞き納得させる『説得』でほとんど解決する。
しかし聞き分けの無いヤツが相手だった場合は準強制的に悪業をやめさせる『除霊』をしなければならなくなる。これは良心的な霊能者としてはなるべく避けたい手段だ。
ところが中にはこの説得も除霊も効果が無いあやかしが存在するのだ。それこそ私の分類で言うところの『妖怪系』と『精霊系』、つまりはそもそも『自らを人間より格上』だと思っている存在達だ。
彼らの正体はまだ不明な部分が多く、最も強制力の強い『祓い』と言う方法を用いても、地域や宗教なども関係するのか、はたまたゲームの世界のような属性的なものが関係するのか、全く効果の出ないケースがある。
そんな中、この鳴神花一は超反則級の能力を持つ。それは、
『どんなあやかしだろうと物理的に殴れる』
と言うものだ。それも相手をもう一度殺す、もしくは消滅させる程に。
鳴神花一は自堕落なダメバーテンダーだが、この世に巣食うあやかしにとっては、『唯一無二の天敵』なのだ。
私はつくづく思う。
どっちにしろ何でこんなヤツに取り憑いてしまったのかと・・・。
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