第一章 その四 幽霊系

LED照明が灯り、夕暮れも過ぎた商店街は昼間のそれよりも別の意味で明るさを増す。

仕事や学校を終え、疲労感と開放感を同居させた人々。鳴神はそんな人の流れに逆行してちんたらと歩を進める。


左に曲がるとLED照明は妖しい色の割合が増える。多国籍な料理店と大人だけが入れる店々が混ざり合う一本裏の商店街は睡眠欲のみ欠いた人間が集まろうとしていた。


しかし鳴神と私の目に映る風景は常人とはまた違った物に見えている。


例えばそこの角のタイ料理店の入口。今、数人のサラリーマンが入っていったが、店の人間と我々とでは『入店人数の認識』には違いが出ているはずだ。

そして先程から鳴神の事を目で追っているTシャツ姿の青年は我々にしか見えていない。我々も彼とは絶対に目を合わせない、それは彼に気付かれてしまうから、『同じ世界の存在』だと気付かれてしまうからだ。


あやかしの世界は複雑だ。これは私自身が死んでからの体験に基づき整理している最中なので、まだ説明しきれない部分もあるが、あやかしにも分類があるように思う。『幽霊系』『妖怪系』『精霊系』意外にも『物質系』なんて物もある。話すと長くなるので今回は『幽霊系』の事を軽く説明させてもらおう。


実は『死ぬ』と言う事は、本当に単純に『肉体が無くなるだけ』であり、死んだ後は周りの人間が自分の事を見えないだけのような状態に陥る。

そこで重要になってくるのが、『自分が死んでいるという自覚があるか無いか』だ。


あなた方の中に幽霊を信じている人と信じていない人がいるように、その思考は死んだ後にも引き継がれる。つまりは死んでも幽霊を信じていない奴は信じていない、そんな者は自分がとっくに死んでいるのになかなか気付かない輩が多い。


だから戸惑う。突然周囲の人間がまるで自分の存在が見えないように振る舞う。まあ実際見えていないのだが、そこが理解出来ない。

そして何年も何年も歳をとらず、沢山の人の中で生前を遥かに超える孤独を味わうのだ。

かく言う私もこの状況が12年ほど続いた。


そしてある日自分の存在に気付いてくれる人物を見つける。皆さんご存知『霊能者』だ。


やっと自分の事が見える人!やっと会話の出来る相手!この喜びは生きているあなた方には想像も出来ないだろう。私なんかやっと出会えた霊能者に思わず、


「生きてて良かった!」


と叫んでしまった。冷静に、


「死んでますよ。」


と言われ、初めて自分が死んでいる事を認識した。人生最高の歓喜の瞬間に人生が終わっていると言う最大の絶望を感じた瞬間だった。


何を言いたいかと言うと、先程から鳴神を目で追うTシャツの青年はまだ自分が死んでいる事に気付いていない、もしくは認めていないのだ。だからああして『自分と目が合う人』を探しているのだ。

ただまだ必死さが見られない。死んだ者に『必死さ』を求めても仕方がないのだが。まだ死んで間もないのだろう。

彼はまだ良い方だが、死んで何十年とこの状態の者にぶち当たるとタチが悪い。あまりに長い長い孤独の末に、やっとの思いで自分に気付いてくれる存在を見つけたのだ。テンションが違う。


「アンタ!見えるのか?!!俺の事見えるのか!!なあ!聴こえてるんだろ?俺の声!!!なあ!!答えてくれよ!話してくれよぉぉぉっ!!!!」


と掴みかかってくる。しかし、


「ああ、見えているし聴こえてもいるよ。それでどうした?」


と言われると、


「良かった!ありがとう!やっと、やっと俺の事を見てくれる人が・・・・。あれ、えーと。・・・俺何言おうとしてたんだっけ?」


と、あまりの孤独の長さに訴えたい事も聞きたい事も忘れてるケースがとにかく多い。


だから無視する。気付いてないフリをする。

幽霊系は怖いわけじゃない、大概が『面倒臭い』のだ。

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