第19話 揺れる心に

新たなスタートに期待という思いを胸に躍らせて、それぞれの目指す姿へと走り出す。たとえ場所や方向が違えど、根底にある熱意は大きく変わらない。そしてその熱意というものは、精神力という名の薪を絶えず運んでくることで熱意という炎を燃やし続けることに繋がっていく。


おそらく私の国では、そんな熱意と精神力を抱えて夢にときめいている何人もの人がいるのだろう。どこを漂流しているかわからない今の私には、そういった熱意というよりは生きるための本能が行動力の源になっており、まずは今日を生きること一点に全身全霊をかけている。


心地よい濤声。海による呼吸。そのリズムに合わせるように"いかだ"がフラフラと浮かんでいる。目に見えるもの、そして耳に届くもの。更には触れるもの全てが自然の織りなす芸術。そうか、誰も人がいない世界というものは、こんなにも穏やかであるのか。


夜空を見上げたところで、喉の渇きも空腹感も満たされることは無いというのに、いつまでも見ていられる。たまに聞こえる風の吐息を受けながら、星の席替えを見ながら、青い星が回っていることに感じるリアル。こんな私への、ささやかなプレゼント。


次第次第に、この"いかだ"が見知らぬ世界へ向かっているが、驚くほどに冷静でいられるのは、私が地球に溶け込んだ証拠なのだろう。どこにいても、この星は常に味方にある。そんなことを思っていた。それにしても、島も無く、もちろん人が住めそうな場所も無い。


「はっ」と目覚めた。穏やかではあるが、口に入れるものが一つもない世界の中で生きる自分自身が夢の中にはいた。何を暗示していたのか。試しにネットで調べてみたところ、漂流には「解決策が見つからない未来への困難・不安」を抱えていることへの暗示であるらしい。どこまで信じるべきかは自分の匙加減であるが。


夢占いを調べ終え、スマートフォンを枕の横に置いて豆電球がうっすら光る天井を眺めていた。大学を卒業して社会人として生きることに対する期待に比べれば、確かに抱く感情は不安が勝っていた。夢の中で浸った永遠の平穏。目まぐるしい現実世界とは、まさしく180°正反対である。


社会人として慣れるまで時間を要することは予想に易いことではあったが、頭で浮かべた困難と現実に向き合うそれは、壁の高さも厚さも大きな違いがある。別に世渡り上手でもなければ、特別頭が冴えるわけでもない。それでも生きていかなければならない。


カーテンの合間から覗かせる上弦の月が、ちょうど私の瞳に映る。スピリチュアルの観点からすれば、成長・吸収という意味を持つといわれる上弦の月。きっと大丈夫。夢の暗示も。占いが示した不安をスピリチュアルの力で上書きし、朝日が昇るまで目を閉じた。

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