第15話 遠近の灯
二十四節気では立春と呼ばれる暦であり、一般に春の気配を感じさせる時期に位置するという。そんな立春よりも前に南から桜に関する知らせが届いており、ニュースの写真には満開の花びらが公園や街に咲き誇っていた。全国のどこよりも早い開花宣言を告げ、5,6月までにかけて「桜前線」が北上していく。
冬至から1ヶ月ほど経過し、なんとなくではあるが夜の帳が短くなっているような気もした。白々と迎える夜明け。夕日が沈んでしばらくの黄昏。彼らが毎日、夏至を迎える6月までひたすら夜闇を奪っていく。ジョギングを始めようと外に出ると、会社帰りのサラリーマンとすれ違った。
雨などの悪天候を除いて、自宅のマンションを大きくぐるりと走っている。ここ数ヶ月の生活の一部としてジョギングが組み込まれている。来月のマラソン大会へ出場するため仕事後の夜に走っているわけであるが、やはり日中と違って必要以上に体力を消費することないので非常に走りやすい。
健康のためにジョギングを日課とする人を何人も見るが、実はその逆でジョギングという運動は不健康になる可能性を持っていると私は健康増進に対し疑問視している。そのため、マラソン大会が終わればジョギング生活も同時に終えるつもりである。別に私はマラソンランナーを目指しているわけではない。
木々の向こう側に、大きな観覧車が七色の電飾を身に纏って回り続けている。きっと今日も多くの客を乗せて、この街を空から見せているのだろう。非常に大きな造りをしているため、てっぺんに到達するゴンドラの姿というのは、ここからでも木々に隠れることなく完全に見ることが出来る。
マンションの周りを5周したところで、クールダウンも兼ねウォーキングを始めた。2月の外とはいえ、ある程度のペースを保ったまま走り続ければ結構な汗をかく。正直なところ、すぐにでも自宅に戻りシャワーを浴びて椅子で一息といきたいところではあるが、クールダウンを怠ることは、それこそ健康に害悪である。
昨年購入した白いシューズは、街灯が灯さないところでは立体感すら感じるほどに目立っている。船舶の発光信号のように点滅を始める観覧車が届ける光の存在感も十分なものではあったが、光が遮られる木々の下では全く負けない存在感があるなと、視線を下ろしながら歩いていく。
ウォーキングもほどほどに、私はマンションに戻ることとした。着実に本番に向けて状態を仕上げていると実感しており、さすがに一線級のプロと渡り合えるとは思っていないが、その他のアマチュアを相手なら、それなりに走れるのではないか。善戦する姿を夜空に描いて、エントランスに足を入れた。
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