第14話 細かいライト

かなり標高の高いA市に位置する峠。街を一望でき、晴れた日中ならはるか先に山々が連なり、夜になれば見上げれば星くずの数々。そこは、雑誌やメディアに取り上げられ、SNSでも注目を集める人気スポットだ。そのため、春の終わりから冬の始まりにかけて多くの観光客や地元民が車を走らせ、頂上を目指していく。


年中どのタイミングで行こうと、天候さえ良ければ頂上からの眺めは言葉もいらない絶景ではあるが、冬季期間は非常に滑りやすい路面状況を原因に発生する事故の怖さがあることも、この峠のもう一つの顔であった。だから、積もった雪や道路を張った氷が解ける頃まで待ってから訪れるというのが多くの考えであった。


そこを逆手に取り、私の車はゆっくりと峠の登り坂を登っていた。ヘッドライトの先までクリアな視界が広がり、非常に鮮明な景色が見られることを期待せずにはいられなかった。この峠は今走っている直線部分が直線らしい直線で、他は基本的にうねりを伴う道が続く。だから、事故もそれなりに発生するのだろう。


そのスポットは次の右カーブを曲がった後、突然と左手に現れる。特に標識も無く、人気スポットとは思えないほど存在感が薄く、初めて来る観光客は通り過ぎることもしばしば。左にハンドルを切り、およそ20台ほど停められる駐車場がある。深夜1時、夜は深いはずなのに3台の車が停まっていた。どうやら先客だ。


「素敵」、「綺麗」、「感動」と、彼らから聞こえてくる言葉は、どれも景色に心を揺さぶられた末に生まれたシンプルかつ中身の濃い言葉たち。見下ろしても見上げても燦然と輝く。オリオン座が見守る地上の息吹は、聞こえずとも確かにあるのだと、その光が聞こえない声で訴えていた。


霞まず透明な空気が光の輪郭を表現する。日付も変わって1時間が過ぎたというのに、全く眠る気配がない光の踊り子たち。とうに三が日も過ぎているというのに、新年の余韻が全く抜けることが無いのだろうか。ただ、沈んだ空気が包んでいるような街よりは、よほど今のような空気が包む方が良いものである。


厚めのジャケットが寒さから身を守っているとはいえ、冬の夜風を浴び続けた顔回りはずいぶん冷たくなってしまった。そんなことも忘れさせる夜景が、いつまでも眩しいままで。今年一年、これくらい明るい未来が待っているなら、どれほど幸せだろうか。どれほど嬉しいものだろうか。


未来で待っている私に、淡い願いを渡しに行こう。大きな目標も夢も無いけど、良い意味で変わらない一年が過ぎていくなら。今年はそれでいい。「今年もよろしく」と呟いた少し遅めの新年の挨拶。たった一言の言葉は、ここから想像もできない高さにある冬の大三角に向かって吸い込まれていった。

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