第13話 バトンタッチ

一年の最後を締めくくる日である大晦日。「残り〇日」と日付によるカウントダウンから、「残り△時間」や「残り□分」、「残り◇秒」といったように、カウントダウンの単位が小さくなっていく。それは、まだ見ぬ「来年」が響かせる足音のクレッシェンドであった。


そんな今年も色々なことがあったとはいえ、自分自身にとって人生を変えるほどの変化は無く、とりあえずは健康に一年を終えられそうである。そうか、あと4時間ほどで来年に。また一つ歳を重ねるのかと思うと、子どもの頃に思い浮かべた大人像が頭をちらつかせる。少年時代が遠く離れていく。


先月、あるサイトで身の詰まったプリプリな写真を載せてあったズワイガニに心を奪われ、それを迷うことなく通販で注文した。地元に戻るわけでもなく、また年末年始を共に過ごす相手もいないので、このままいくと年末まで同じように過ごしかねないと自分なりに抱いた危機感は、ズワイガニによって和らげられた。


そんなズワイガニというご馳走を鍋にくぐらせる。いわゆる"しゃぶしゃぶ"をし、数秒で"とんすい"に移し、子どもながらにワクワクしながら一口。11月から旬を迎えるズワイガニということもあり、その旨味や甘味というのは格別なものであった。そして締まった身ということもあり、その重厚な歯ごたえにも大満足であった。


大晦日の夜を数段グレードアップさせたズワイガニではあるが、旬を迎えていることもあり、鍋だけではなく焼きガニや刺身など様々な形で楽しむことも出来る。そんな楽しみを思い浮かべ、全て食べることはせず残すこととした。除夜の鐘がこだまするにはまだ早いが、寄り道をしながら近所のお寺に向かうこととした。


どこか心躍らせる雰囲気を醸し出している騒めき。寄り道と言っても、あてもなくぶらりと歩くだけで、時間つぶし程度に一人。このあたりの住宅街は、師走という言葉とは似つかないほど穏やかで、ある場所からは家族ぐるみで盛り上がる声が、ある場所からは数人の笑い声が窓越しに聞こえてくる。


お寺に着くと、ほどなくして除夜の鐘の音が街に向かって四方八方に放たれた。普段は自宅から聞いていたが、こうして間近で聞くと迫力が違い、なるほど煩悩が祓われるという意味もなんとなくではあるが理解できそうであった。ここから、あと107回という数が鳴らされる。目を閉じて、鐘の音を心に巡らせる。


107回を数えた除夜の鐘が鳴り終えると、目の前で襷を待つ来年の姿があった。確かに刻んできた365日。そんな日々の出来事を詰め込んだ箱は、決して溢れてしまわないよう念入りに梱包される。108回目を鳴らされた瞬間、梱包された過去は「昨年」という送り先に発送されていった。

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