第12話 宝石たちの戯れ

どんなに夏が暑くても、この街が包み込む冬の凍てつき具合と言えば尋常なものではなく、氷点下2桁を容易に下回る。あの暑さはどこへやら。猛暑日にも達する夏の灼熱、そして容赦ない冬の極寒。この地域は盆地ということもあって、どうしても極端な気候になりがちとなる。気象情報の気温の数字が目立つ。


基本的に冬場は雪が積もってしまうため農業を行うことは出来ず、同業者はウィンタースポーツのインストラクターや別の仕事に勤しんだりと、時間の使い方は様々である。共通していることと言えば、除雪作業か。飽きもせず降り続ける雪を放っておくと、とんでもない積雪となり大変なこととなる。


夕闇に紛れるように、雪が降り始めた。いったいどれくらい降れば空の気は済むのだろうか。日中は確かに日差しが窓から忍び込んでいたはずなのに。薪に火をつけて家で暖をとっていたが、どうやら雪かきが必要になりそうだ。足跡も無く、平らに覆った純白のシルクと比喩したくなる景色は、間違いなく雪の仕業。


さっさと雪かきを済ませ、家に戻った。嘘のように暖かい玄関の空気に、まるで別世界に足を踏み入れたよう。上下のウインドブレーカーを脱いで椅子に座った。というより、もたれかかった。とりあえず、作っておいたシチュー温めたのち口にし、湯船に体を浸すことで芯から体を温めた。


私の場合、冬場は仕事が無いため特別早く起きる必要も無いので夜遅くまで起きていても何ら支障はないが、染みついた生活リズムに抗うことは出来ず、歯磨きをし床についた。なぜか疲れを感じたこの夜、夢の世界へ辿り着くのに5分も要することはなかった。


氷点下10度を下回る早朝に風が無い快晴下を前提に見られる煌めきをダイヤモンドダストと呼び、「天使の囁き」の別の名を持つ。なお、天使とはキリスト教やイスラム教などの聖典や伝承に登場する神の使いを指す。あの現象ならば、天使という言葉を使うことに相応しさすらある。そのくらい神秘の現象である。


しかし私の目の前に広がる景色は、確かにそんなダイヤモンドダストではあったが、何かが違う。それら、いや彼らというべきか。魂の中に息づく意思によって宝石が踊っているように見えた。今、私が見ているのは天使の囁きではなく、天使そのものなのか。幻想的な舞台の前に、しばらく心を奪われていた。


フェードアウトするように幕を下ろす天使たちのダンス。一連のシーンが夢であったことは、目を覚まして間もなく理解することが出来た。しばらくは鮮明に焼き付いた戯れの余韻に浸ろう。外に舞い降りる雪たちは、夢に見た天使のように魂は無く、ただ夜風に身を任せるだけだった。

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