第09話 占めた夜色
月替わりのカレンダーは、あと2枚。壁に掛けてあるカレンダーは、上半分を写真、下半分を日付という、オーソドックスな作りとなっており、その写真にはオレンジをメインとする色づいた紅葉たちが延々と続いている。とある山岳を写真に収めたようで、いつかは訪れたいと思う場所の一つとして心のリストに留めてある。
とはいえ、紅葉を見るだけなら街から少し離れた場所にもスポットがあり、車で20分ほど走らせれば到着する。金曜日の夜ということもあり、明日明後日は休日であるため、たまには外に出かけてみるのも良いかと思い、車の鍵とスマートフォン、そして自前のカメラを持って玄関を出た。
現在のスマートフォンというのは非常に高い画素数の写真を撮影することが可能である。一眼レフのような本格的なカメラが無くても、実際の景色と遜色ないクオリティを再現し、鮮明に思い出の一つ一つを思い出すのに大きな手助けになる。そのためデジタルカメラの売り上げは、スマートフォンの台頭と同時に右肩下がりらしい。
そんなことを思いながら車を走らせているうちに、目的のスポットに到着した。どうやら誰もいないようで、好きなように写真が取れると思うとワクワクするものである。別に写真展を開くとか大それた目的は無いが、せっかくここまでカメラを持ってきた以上は渾身の一枚を、という思いは当然あった。
助手席に置いたカメラを手に取り、早速撮影場所を考えた。生憎の曇り空で星空をバックに紅葉を、というわけにはいかなかったが、それでも雨が降っていないだけ良いと思った。ほんの少しの落ち葉が季節の移ろいを感じ、木々で揺れる紅葉をメインに地面を上手く映るように、カメラの位置を選ぶ。
紅葉それ自体はオレンジというよりは、やや赤みがかった色をほこっている。ただ、等間隔に立ち並んである街灯の一つ一つがオレンジ気味の色をしているためか、どれもそれに染まったように見えた。どういう角度で撮影しようにも、染まったオレンジが離れる素振りが見られない。
思い出せば、今回は「夜の」紅葉を撮影することが目的であり、街灯に上塗りされた紅葉を写すのも夜"ならでは"である。露出補正やホワイトバランスを調節しながら納得できる写真となるよう探した。写真を撮っては調節と場所を変えたりと、夢中になるうちに時間を忘れていた。
左側から奥に続く紅葉を彩る木々。レンガで作られた道路に横たわる落ち葉。夜の曇り空。それぞれが主役のようではあるが、落ち葉や道路、夜空は私の配役を知っているかのように、主役である紅葉を引き立てているようであった。我ながら会心の一枚。満足した思いを抱え、その場を後にした。
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