第07話 陽炎ぼっち

みずがめ座が空を飾る。郵便受けに入っていたチラシには「秋の〇△フェア」といった謳い文句が綴られたものがいくつもあった。また、スマートフォンの同じようなメールがいくつも届いていた。食の季節、芸術の秋…この季節は、様々な言葉と紐づいている。芸術とは疎いながらも感性が豊かになっていく。


インターホンが鳴り、ドアを開けると宅急便の姿が。実家から届いた段ボール箱を開けると、そんな秋を彩る野菜が入っていた。驚いたことに高級食材である松茸が入っており、一体何の間違いなのだろうとは思いながらも、ありがたく後日食べることとした。味覚を通じて季節を楽しめるというのは、この国の良いところではある。


とりあえず、サツマイモに関しては甘煮にすることにした。それほど調味料が多く揃える必要もなく、またレシピとしてもシンプルであるからだ。とりあえず水洗いし輪切りにしたさつまいもを灰汁を抜くため20分程度水に浸す。その間に煮汁を作った。醤油に砂糖、みりん、そして水があれば煮汁は完成する。


灰汁を抜いたサツマイモと煮汁を鍋に入れ、落し蓋をし中火でしばらく待つ。そうそう、段ボールにあった野菜としては、ニンジンやジャガイモ、マイタケ…と他数種類にも及ぶ野菜が入っており、しばらく買い物で野菜を買う必要が無いほどの量が、そこにはあった。


たくさんの野菜に目を向けているうちに、どうやらサツマイモの甘煮が完成したようで、深めの白い容器に移した。適度に甘じょっぱい香りが食欲をそそる。「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが「食欲の秋」と呼ばれる所以の一つではあるらしいが、今の私は間違いなく心から幸せを感じている。


さて、冷めないうちに秋の味覚を楽しもうと、テーブルに甘煮を置き椅子に腰を据える。箸でつまむサツマイモは程よく柔らかい。優しい甘さが口に広がる。醤油の塩気などの味わいが、砂糖やみりんだけでは引き出せない味の奥行きを広げていく。そこにサツマイモ本来の味が加わるのだから、文句のつけようがない。


冷蔵庫の野菜室は、ほどんど空の状態であり野菜が送られるタイミングとしては申し分のないものであった。たんに偶然なのだろうか。それとも、送り主も家族だから阿吽の呼吸によるものか。野菜室とはいえ永久に新鮮さを保てるわけではないので、毎日それなりのペースで野菜を食べていく必要がある。


夜は10時を過ぎ、家族に電話するには少々遅い時間である。明日、夜ご飯を終えたぐらいの時間を見計らって電話をするか。いつの間にか窓を濡らす雨粒がいくつもあり、予報とは異なる天気に移り変わっていた。そろそろ秋雨と呼ばれる時期に差し掛かってきているのだろうか。

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