第06話 残り火と銀杏

日本において季節というものは春夏秋冬と4つに分類されるが、「〇月△日から季節が変わる」といったように明確に移っていくというわけではなく、徐々に次の季節へ姿を変えていく。それは絶妙な角度をなす自転軸と公転によって生み出され、我々の生活へ多分に影響を与えている。


「秋」という漢字には"のぎへん"に「火」という漢字が使われている。秋に収穫される穀物の天敵となる害虫を焼殺し、それを他の虫への見せしめのために火が使われていた、といった過去を漢字の由来としているらしい。ただ、今の時代にあてはめれば、「火」という漢字は夏の名残を示すようにも見える。


最近の夏という季節は寂しがり屋というか、毎年「残暑」という言葉を耳にする。今年の残暑は例年以上に続いていた。もうカレンダーは9月を折り返したというのに。それでも秋風を感じる瞬間はあり、残暑の隙間から垣間見える景色には確かに移ろう季節の流れというものがあった。


その秋風を感じる瞬間は、決まって夜に訪れる。まだ日が傾くまでは、押し寄せる風にもずいぶんと熱があり、到底涼しいなどと言えたものではない。しかし、西日が沈み月が昇ってから少しずつ軽くなる風の重さ。そこに、ようやく"うだるような"暑さが終わるんだと、ふと思うのである。


明日から3連休とあり、今夜はのんびり出来る。お酒とおつまみを買うために、夜10時まで営業する近くのスーパーへ行くことにした。時折東へ伸びる雲に隠れながらも存在感を放つ月の光。素人ながらに、写真家なら是非とも撮影したいであろう空模様とも思える、そんな空の下を一人。


缶ビールを数本、サラミやビーフジャーキーなどを明日から始まる連休の前夜祭のお供に選んだ。まだ口にしていないにもかかわらず今から心躍るのは、まるで子どものようで。さて、来た道を戻ろう。ふと空を見れば、伸びやかな雲の裏側へ月は場所を変えている。先日迎えた十五夜とは違う白粉を塗る下弦の月。


もう過ぎてしまったが、来年は十五夜ならではの風情を味わいたい。今年は、完全に十五夜を忘れており、いつもとなんら変わらない日常が私にはあった。カーテンから月を眺めることすらせず、もちろん十五夜のお供え物であるお団子やススキといったものを飾るわけでもなかった。来年は、暦に意識を向けないと。


その時であった。民家の間から、見えないながらも細い筋を感じる冷たさが横切った。それは紛れもなく秋風と呼ぶに相応しく、ゆっくりながらも確実に時間の流れに乗るように季節も進んでいることを噛みしめていた。そのうち、この風は昼夜問わず感じることが出来るのだろう。その時は、正真正銘「秋」が主役である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る