第03話 熱波の包囲網
電車を降りていく、駅から乗ってくる人々が入れ替わり立ち替わり。電車に揺られて1時間以上もなれば、それは様々な人々がすれ違うかと。もう少しで自宅からの最寄り駅。もう光が浮かび上がるほどに街が暗くなり、そして窓には車内が見えている。電車に乗った時は、まだ橙色を焼き付ける空が浮いていた。
改札を出て外に出ると、そこはずいぶんと賑やかであった。駅員に話を聞くと、どうやら駅の近くで祭りが行われているらしい。なるほど、だからいつもよりも多くの人々がこの駅で降りていたのか。人の波は、そんな賑わいの渦に伸びており、相当な人数がいることは、一目でわかるほどであった。
その祭りが終わりを告げるにはまだ先ではあるが、私は逆方向に位置する自宅に向けて歩き始めた。全く祭りに関することは頭になく、疲れた体をあえて人混みに溶け込ませる必要も無い。そんな思いもあって家路を急ぐことにした。まだまだ引きずる昼の暑さが、眠らない街を呼び起こしている。
しかし暑い。汗がひくことを許さない熱帯夜は、一体いつまで続いていくというのか。日中は35度を超え、最低気温に達する明け方も25度以上。全くと言っていいほどに健康的ではない暑さであり、毎日のように熱中症を原因として病院に運ばれる人が、この国には数多存在する。困るくらいに暑いものだ。
鞄から取り出したペットボトル飲料水は冷たさを失っており、ずいぶんと温くなっている。とりあえず中身を飲み干し、コンビニに足を運んだ。とにかく冷たいものを口にしたく、飲み物とアイスを片手にレジに向かい、会計を終えてコンビニを後にした。冷房のない外の空気は、澱んでいるようで。
ビニール袋から取り出したのはアイスが先で、油断するとあっという間に溶けてしまうからだ。実際、コンビニを後にして数分経っただけで軽く溶け始めている。油断ならない暑さではあるが、この暑さがアイスの味を格段に引き上げる。150円のアイスではあるが、今の私には価格とは比にならない価値があった。
とりあえず喉を潤わすため、間もなくしてペットボトル飲料水に手を伸ばした。先ほどの温く、"飲みにくさ"すらあった飲み物とは別物のような、刺すような刺激。今の暑さには、これくらい冷たい刺激が欲しかった。たまらなく爽快。ようやく人間らしさを取り戻せたというか、生き返ったと思う。
祭りの盛り上がりは、離れた自宅近くにまで聞こえてくる。その響きは僅かではあるが、確かにここまで届いている。あれだけの人々が一斉に話をしているわけだから、それはそうか。マンションの入り口、3人の人々が出てきた。浴衣姿は、これから祭りに行くことを告げている。軽く会釈だけしておいた。
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