魔術学院2年目
第22話 星暦550年 藤の月 7日 ランプ
それなりに良家の子息が集まる魔術学院の寮は通常はお行儀が良いのだが、年末の騒ぎは普段の澄ました顔が信じられないぐらいに・・・はっちゃけていた。
実は皆さんストレス溜まっているんかね?
まあ、それはともかく。
俺らは無事アシャール魔術学院の2年生になることが出来た。
◆◆◆
単純に魔力をふるって現象を起こすタイプの魔術は大体1年目に学び終わる。
後は応用を利かせたり、自分で本を読んで研究したりするのだ。練習を重ねる事で術の発動速度や威力を上げることも可能になる。
考えようによっては、1年目の授業が終わったら戦場に行って戦うことが出来るようになるとも言える。
まあ、実際には1年目の授業を終わっただけの学生まで戦場に送るようになったとしたら、この王国の終わりが近いってことだと思うけど。
さて、基本を教えた後は、伸ばしたいなら自分で努力せいと言うのが学院のスタンスだ。
練習の為の場所は提供してくれるし、壁にぶつかった時にアドバイスもくれるが、基本を教えられた後は自力で伸ばさなければならない。
一応、魔術院や国の資金をそれなりに投入している教育機関なのだ。
本人が必要と思わない範囲まで、伸びるようプレッシャーを掛けてくれる程の人員は無いという所か。
で、2年目になると物に術を込める手法を学ぶ。
所謂、魔具と言われる物だ。
魔力を使ったランプや魔力を帯びた武器、遠くの人との会話に使える通信鏡や転移門も魔具の一種だ。
これは本当に奥が深く、適性、能力、閃きその他諸々の要素に左右されるとのこと。
最初に学ぶのは魔力を使ったランプだ。
光というのは弄っても貯めてもあまり危険が無いからね。
もっと物騒な時代には最初に武器に攻撃魔術を帯びさせる方法を教えていたらしいが、実用的なレベルまで魔力を込めようとすると暴発事故が起きることが多々あったと授業では言っていた。
平和な今となってはそんな危険な術から始める必要もないことから、俺たちの授業では実用性が高い上に比較的安全なランプから始めるのだ。
先日習ったのは、学院が提供してくれた小さな魔石を動力源とするような光の魔術をランプにかけることだった。
今日はその応用方法を教えてくれるらしい。
「ランプの基本はここ数日やり方を教えてきたように、魔石の力を使って光の魔術を継続させることだ。
だが、この基本もやり方しだいによって魔石が1刻で尽きるか1週間持つか、蝋燭程度の明るさしかないか、目晦ましに使えるぐらい明るくするか、違ってくる。
材料によっても違いは色々作れるが、まずは一番簡単な形状の違いからの応用を見せる」
ニルキーニ教師が教室の前でガラスの塊を持ち上げて見せた。
「単なる丸いガラスの塊に光の魔術をかけるとこうなる」
発動の言葉すら発することなしに、ニルキーニ教師がそのガラスに光の魔術をかける。
光がガラスの中で仄かに輝き、やがて消えた。
「魔石を動力源にするか、自分で術をかけ続けない限り丸いガラスの塊にかけられた光の魔術はすぐに消える。だから動力源にした魔石の消耗も早い。
これをこちらにかけてみると・・・どうなると思う、アレク?」
三角錐のガラスを指しながら、アレクに教師が尋ねる。
「・・・光が反射してもっと明るくなる?」
自信なさげにアレクが答えた。
ま、それしか答えはないだろうな。
態々暗くなるとか照明時間が短くなる例を最初に見せるとは思えないし。
ニルキーニ教師が三角錐のガラスに光の魔術をかける。
光がガラスの中で屈折し、何度も中で反射した。
丸いガラスに魔術をかけたときよりもずっと明るく、光の継続した時間も長い。
今度は丸い棒の形をしたガラスを取り出し、魔術でそれを曲げて丸い輪にした。
「これは光の屈折率を上げたガラスだ。それを丸くして光を通すと・・・こんな風になる」
光がぐるぐると輪の中を回っている。
よくよく見ると、ガラスの中で光が屈折することで外に出ないでガラスの中に閉じ込められた感じだ。
三角錐よりも更に光が持続した。
「こんな風に、素材と形状によって同じ光の術でもその効果と持続時間は違ってくる。
魔具というのは、術をいかに効率的にモノに込めるかの研究にかかっていると言っていい。
何をやりたいかによってかける術は変わってくるが、魔具作りで一番重要なのはどれほど応用を利かせて効率的な術の継続を実現するかだ」
術の出力ではなく、工夫が重要な訳だ。
魔力は人並み程度しかないものの、魔力(それ以外もだが)を見極める才能がずば抜けている俺にとって、成功するためにはこの分野での腕を磨かなくっちゃな。
「ということで、今日と明日で、出来るだけ効率的なランプを作るよう、実験してみろ。ずば抜けていいものが出来たら特許を取って売ることだって可能だぞ?」
ほほう。
これは真剣にやらなくっちゃな。
売れなくても自分でランプは使うし。
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