第21話 星暦549年 黄の月 18日 話し合い
色んな誤解を解消するためにも、話し合いは大切だ。
ただ、同じ言語を話していても必ずしも意思が通じ合うとは限らないのが問題だが。
「今まで他の人間とも話したりしてきたのか?」
清早に尋ねる。
「メルシャナとか言う森の方のお気に入りとは時々話したけど、他のは俺らのこと見えていないのが殆どだったから、話し掛けるだけ無駄〜」
「具現化したら人間にも見えるんじゃないのか?」
精霊の存在と言うものは大抵の人間には見えない。
加護の石を貰うと石をくれた相手は見えるようになるらしいが。
シャルロいわく、精霊が庇護者を見つけやすくなるように波長を合わせる効果があるらしい。
「別にそこまでエネルギーを使うほど話したい相手なんていなかったし。
それよりは見えないまま、悪戯をした方が楽しいぞ」
ガキらしい返事だ。まあ、話して楽しい人間なんてそう沢山いるもんじゃあないけど。
「・・・清早って生まれてどのくらいたつの?人間の年月で」
翠の髪を揺らしながら清早が首をかしげた。
「どーだろ?百年ぐらい?」
そっか。
精霊って100年で子供なんだ。
・・・つうか、こいつって精霊の基準で見たら、子供なんだよな?!
「100歳って・・・精霊としては子供の部類?シャルロのなんて何歳ぐらいなのかな?」
清早が偉そうにそっくりかえる。
確かに加護の石を貰ってから具現化していない精霊の細部までがはっきりと見えるようになったなぁ。
以前は集中しなければ存在しか見えていなかったのに、今では何も努力しなくても詳細までが鮮明に視える。
「俺は若いけど、強いんだぞ!蒼様なんて俺のこと赤子だっていうけど、俺の力は一人前以上だ!」
「で、あの蒼いのは何歳ぐらい?」
「さあ?5千年ぐらいじゃないの?」
うう~ん・・・。単なる子供の無頓着な想像なのか、本当に5千年も前から存在する精霊なのか。
判断に苦しむ。
まあ、蒼流が何歳だろうと俺には直接関係ないけど。
気力が尽きる前にもっと俺個人にとって重要なことを確認しておくか。
「この石って『加護の石』って人間の間では呼ばれているんだけど、精霊にとってこれってどんな意味があるの?清早はどんなつもりで俺にこれをくれたの?」
別に、友達のシルシっていうのでも構わない。
人(というか精霊だけど、この場合)に頼って生きるつもりは無い。人間と全然考え方の違う精霊という存在と友達づきあいしていくのも楽しいだろう。
「ん~?俺も良く知らないんだよね。仲良くするシルシって聞いたけど」
・・・やっぱ、そんなもんか。
「でも、ウィルが気に入ったから、傍にいることも多いと思うし、呼べば助けてやるぞ?」
「ありがとよ。
そう言えば、今朝川辺で術を使ったら妙に普段に比べて術の効果が大きかったんだけど、何でかな?」
清早が指の先から水を噴出させて小さな虹を作って遊ぶ。
キラキラして、綺麗だった。
・・・もうすぐ2年に進級したら物に術を込める方法を学ぶようになる。
あんな風に虹を作る魔術品を作れないかな。
高く売れそうだ。
「う~ん、俺の友達のシルシを持っていたから、他の精霊たちも仲良しになりたかったんじゃない?」
「これってどこに行ってもどの精霊も仲良しになろうとしてくれるのか?
それともこの近辺だからお前のトモダチが大切にしてくれただけ?
火の精霊とかだったら俺がお前と仲良しだったらかえって敬遠したりする?」
ああ、蒼流に直接聞きたい。
シャルロを使ってあっちに問い詰めた方が、人間の視点から見た質問の真意というのが伝わりそうだ。
でもここで分かり合う努力をしなかったら、分かり合える前に俺の寿命が尽きちまうかもしれないからなぁ・・・。
「この大陸の精霊とは仲間だぞ。まだほかの大陸までは遊びに行ったことないけど。
ウィルが旅に行くなら一緒に行くのも楽しいかもね~」
何やら期待を込めて見つめられた。
おい。
他の大陸なんて、殆ど伝説の存在なんだぞ。
そんなに気楽に遊びに行けるか。
「例えば火と水、土と風って術としての相性は悪いけど精霊も仲悪いのか?」
「別に?あんまり同じ所にいないから知り合いは少ないけど、特に仲が悪いという訳ではないぞ」
なるほど。
少なくとも清早に加護を貰ったから火の系統の術が使えなくなるとか言う訳はなさそうだ。
後でちょっと術を試してみた方がいいだろうが。
「ま、これからも末永くよろしくな。お互い、楽しくやって行こうぜ。」
「勿論だ!」
学院側はここまで話は単純ではなかった。
シャルロにも加護を貰っていることに関してどんな干渉があったのか聞いたのだが、何分あれだから・・・。
干渉をされたことがないと言っていたが、ぽや~としていて気がつかなかったのか、侯爵家の三男にプレッシャーをかける度胸がある人間がいなかったのか、それとも本当に精霊の加護を利用しようとする人間がいなかったのか。
分からん。
とりあえずローラン教師には適当なことを言って誤魔化したが、当然それでは済まされず学院長の部屋に呼び出された。
「向こうで何やら不思議なことが起きたらしいな」
いつものごとくお茶を淹れながら、学院長が俺に声をかけた。
「はあ・・・」
学院長の後ろに精霊がいた。
色からして、火の精霊かな。
そっか、この人も加護持ちだった訳?
まあ特級魔術師なんだから当然と言えば当然かもしれないが。
今まで一緒にいるのを見たことなかったけど、やはりシャルロのみたいにべったりしている方が珍しいのかな?
「炎華の話では、水の幼子と仲良くなったとか?」
「やっぱ、こいつガキですか。イマイチ100歳が精霊の『若者』のレベルなのか、『子供』なのか分からなくって」
しらを切るのは諦めて、学院長から情報を得ることにした。
「精霊とは生まれた時から力が決まっているらしい。別に年を経たものが力が強い訳ではないが、若い精霊は人間に騙されたり愚かな間違いを犯して滅してしまったりすることもあるから、周りの精霊から庇護されるようだな」
「人間に騙されるって・・・。精霊って人間の本質が見えるんじゃないんですか?」
「人間は一面しか無い、単純な存在ではないからな。仲間や友から見たらこの上なく高潔な男が、敵を滅する為にならどのような卑怯な真似も進んでする場合もある。
本質が見えるからこそ、盲点を突かれて騙されることもあるのだよ」
最初から表面しか見えない人間は、嘘をつかれている可能性をある程度は常に意識している。
本質が見える精霊は、却って己が騙されるという状況が想定できないのか。
幾つか読んだ本に出ていた、精霊の命を使った術や魔具というのは・・・そうやって騙された精霊が犠牲になって作り出されたものなのかな。
だからこそ蒼流に卑怯なことをしたら滅すると脅された訳か。
「川辺で術を使った時、今までに比べてずっと術の威力が上がっていました。
あれってやはり加護の石を貰ったからですかね?」
「精霊が多いところの方が術の発動が楽になり威力が上がると言うのは本当だ。それを実感させるための遠足だからな。
それとは別に、精霊の加護を貰うとほぼ全ての精霊から好意的に接されて術がやりやすくなるのも事実だ」
で?
あんたなら俺が何を聞きたいか、分かっているだろうに。
・・・素知らぬ顔をして学院長はお茶を飲んでいる。
「加護の石を貰っていると言う事実は、人から隠した方がいいですか?
国の為、魔術院の為に何かをせよと強制される状況は避けたいんですが」
学院長がクッキーを口に放り込み、お茶で喉を湿らす。
「加護と言うのは精霊の好意から与えられるものだから、召喚よりも影響力が大きい。
加護を与えた人間に無理をさせて精霊を怒らせても本末転倒だろう?精霊の報復とは時々思いがけない形を取る時があるからな。
別に加護を貰ったことを公開してもそれを悪用しようとする者は少ないだろうよ」
あっそ。
じゃあ、俺は単に清早と楽しく遊んでいればいいのね。
良かった。
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