第23話 星暦550年 藤の月 8日 観察

「やっぱ、一つ分解してみるべきじゃない?」

シャルロが提案した。


グループで作業してもいいとのことなので、生徒は2人、3人とまとまって色々議論している。

俺はシャルロとアレクといつの間にか一緒に座っていた。


な~んかこの二人と気が合うんだよね。

シャルロの浮世離れしたポワポワ感と、アレクの商人育ちらしい現実的なところが、いい感じに合うのだ。

誰が誘うとも無しにいつの間にか一緒にグループになっていたから、こいつらも似たようなことを感じているのだろう。

下町育ちの俺の感性が二人にどう見えているのかは不明だが。


それはさておき。

ガラスの塊を見ながら考える。

モノの変形・変質させる術は既に習っている。

色々片っぱしから試すか・・・なんて思っていたら、シャルロが現物を分解しようと提案してきたのだ。


意外~。

一番行き当たりばったりに行動しそうなのに。


「シャルロってこういう時に感性で行き当たりばったりに試していくタイプだと思っていたよ」

アレクも同じことを考えていらしい。


「そ~!解体して調べようなんて言いそうなのは俺かアレクだよね」


ぷっとシャルロの頬が膨れる。

「もぉ。僕をなんだと思っているの。計画性をもって行動をするのって得意なんだからね」


「いや、お前はたんぽぽの種のようにふわふわと風に任せて漂うタイプだと思うが。

まあ、それはいいとして。

確かにランプを調べるのはいいね。一番機能が良いのと一番安物とを調べて比べて見ようぜ」


俺の提案に二人が頷く。

「一番安いのは俺のだと思うけど、シャルロとアレクのってどっちが性能いいんかね?」


アレクがため息をついた。

「シャルロの方が高いけど、性能は私の方がいいな」


俺とアレクのランプを取ってくる。

考えてみたら、これがどう機能しているかなんてあんまり考えてみなかったなぁ。

別に学院に来る前にだって、こういった魔具がどう動いているのかを見ようと思えば見ることができたのに。


ただし、学院に来る前は魔具なんて買う金銭的余裕は無かったけど。

盗んだものを売らずに分解するなんていうことはあり得なかったから、金庫以外は調べてみようなんて思いつきもしなかった。


元々、俺にランプは必要ない。

心眼サイトを使えば完全な暗闇の中でも本を読めるし、集中すれば図書館の入口に立って奥の部屋にある本を読むことだってできる。


頭が痛くなるから滅多にやろうとは思わないけどさ。


考えてみたら、その気になれば俺って実技以外はカンニングやり放題じゃん。

術を使って他の人の解答を見ようとすればばれるが、俺のように生来の能力の場合は個々の机ごとに結界でも張らない限り監督官にだって分からない。


とは言え。

元々魔術師は実技と応用が重要な職業だ。

筆記試験でどれだけいい点数を取ろうと実技で落第したら留年・退学だし、反対に筆記試験の結果が悪くても実技が合格だったらそのまま進級・卒業できる。

筆記試験で合格の点数が取れるまでひたすら補習を受ける羽目になるけど。


・・・カンニングで受かった試験結果でも金になる資格ってあったっけ?

今度ちょっと調べてみよう。


それはともかく。

俺のランプを取って来て、点けてみた。

スイッチを入れると魔石が動き、術回路が繋がって光の魔術が発現する。

術回路と言うのは魔力を特定の形に流すことで術を発現させる手段だ。

1年で学んだ術は、魔術師の意思の形を発現の言葉を使うことで魔力を具現化させる。

意思で自分の魔力を具現化させるので『形』は関係ない。

具現化の言葉ですら、単に授業で『この言葉はこの術』と言う風に条件づけて学んだから使うだけであり、意思の力さえ足りれば言葉なしでも大丈夫だし、違う言葉でも術は発動できる。


術回路はこの意思による具現化を物理的な形に置き換えたものだ。

意思で意識せずに発生させている魔力の形を回路という物理的な形に写すことで、魔力を魔石から供給した際に術を発現させる仕組みにするのだ。


術回路の形は実は魔術院が特許で保護している。

まあ、個人的に家で使う分には勝手に拝借しても問題は無いだろうけど。

商業的に売り出す分には魔術院が厳しくチェックしている。

だから術回路の研究というのは魔術師にとっては重要な職業の一つだ。


「このランプの術回路と私のとは同じか?」

アレクが自分のランプを持ち上げて術回路を確認しようとする。


「点けてみろよ。魔力を見れば回路の形がはっきりするだろう?」


シャルロがため息をつく。

「しないから。室内灯の術回路なんて、分解せずに視えないって」


「努力が足りないな、シャルロ君。とりあえず、点けてみろよ」

にやりと笑いながら紙を引き寄せる。

ランプの光がともって魔力が流れ始めたら、その回路を紙に書き込んで行く。

あまり絵を描くのは得意じゃないんだが、魔力がどう流れているかがとりあえず分かればいいだろう。


「眼がいいのは知っていたけど、ここまでいいのか・・・」

書き終わった術回路を見ながら、アレクが唸る。


ついでに別に紙に俺の安物ランプの回路も書いてみた。


「やっぱ、回路からして違うんだね」


術回路は魔力を通すモノならば何ででも作れる。

それこそ、髪の毛でもだ。

細くて扱いにくいから、余程小さな回路が必要とでもいうのでない限り髪の毛を使うような奇特な技術者はいないけど。


今回は用意されていた細い銅のケーブルを使って二つの回路の形を作ってみた。

上に術の発現先のガラス玉を乗せて、魔力を通してみる。


明らかに、アレクの回路の方が明るい。

「高いだけあるねぇ」


「つまり、ランプを明るくする手段としては、術回路の工夫とガラスの形の工夫、それにガラスの素材の工夫とある訳だ。3人いるんだし、担当を決めて実験してみようか」


アレクの提案で、くじ引きをして決めることにした。

どれも面白そうだが・・・俺ってどれが一番向いているんだろ?

考えてみたら、こういうことに対する適性というのも見極めていかなきゃな。

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