第18話 ベリアルとの対決……って、え?

「ちょっと、あなたねぇ。いい加減、私のアルフレッド殿下を出しなさいよ」

「え? 私?」

 慌てて前を見ると、もうエミリア様とエレン様の姿は無かった。逃げ足、はやっ!

 

 説得しているアイザック殿下を振り切って、ベリアルが私の方へずんずんと歩いてきた。

 制服とはいえ、紺色の簡易ドレスになっている。あんな歩き方してよく裾を踏みつけないなぁと感心して……、いや、つい現実逃避を。

 仕方が無く、ベリアルの方に向き直る。


「勝手に婚約なんかしてっ。アルフレッドルートに婚約者なんかいなかったのに、何なのよ。いらない事しないで、大人しくローレンスルートの悪役令嬢してなさいよね」

 アルフレッドルート? 悪役令嬢? ベリアルも転生者なの?

 

 色々、突っ込みたいけど、ベリアルの肩越しにアイザック殿下とフィリップ殿下も見えるし、何より大声でベリアルがしゃべるものだから、周りに人が集まって来た。

 多分、私の監視もまだ外れていない。


「ルート? 悪役令嬢って、何のことですの?」

「あんたの事よ。ブラコンのオリビア。何で兄様ベッタリじゃないのよ。あんたの所為でローレンスの好感度も上がらなかったし」

 いや、現実世界で逆ハーレム目指してどうする。乙女ゲーム内でも、そんなのなかったのに。


「何をおっしゃっているのか、よく分かりませんわ」

 私はにっこり笑ってそう言った。いや、分かっているんだけどね。

「他の悪役令嬢はどこに行ったのよ。婚約破棄もされてないし、王子達も分かんないこと言うし。なんで、私の好感度下がってるのよ」


 さらに近づいて肩を掴んできたから、思わず小声で言ってしまった。

「あなたのその態度の所為でしょ? 乙女ゲームのベリアルは、努力してたもの」

 そう、乙女ゲームの方のヒロインであるベリアルは物凄ものすごく努力していた。

 平民の彼女は他の生徒と違って、貴族のマナーやダンスを一から覚える必要があった。

 なのに1年後には、ぎこちないながらもそのすべてをマスターしている。

 そして、お勉強の成績の方は私と1位争いをするくらい優秀だった。

 多分、あの彼女なら先々王妃になっても及第点をとれただろう。


 目の前のベリアルは、私に文句を言った時の顔のまま固まっている。

 自分の他に転生者なんていないと思っていたのだろうね。私もさっきの発言まで、彼女が転生者だなんて気付かなかったもの。


「オリビア」

 アルフレッド殿下の声だ。騒ぎを聞きつけて王宮から来てくれたのかな。

 私が振り向こうとすると。

「捕らえろ」

 という声と共に、私の肩を掴んだ手が離され。ベリアルは、近衛兵達に捕まってしまっている。

 それでも、ベリアルの顔はやっと好きな人を見付けたとばかりに、笑顔になっていた。

「アルフレッド様。私……」

 

 そんなベリアルを、アルフレッド殿下は冷ややかな目で見ているのだけど、気付かない?


「明日までだ。明日の早朝までに寮の荷物をまとめてこの学園を出て行くがいい。辻馬車を手配しよう」

 それでも声だけは穏やかにアルフレッド殿下は告げる。

「どうして、そんな? アルフレッド様。やっぱり、あの女に騙されているんだわ」

 ベリアルが叫んでいるけど……。

「名前を呼ぶ許可をお前に与えた覚えはないのだがな」

 聞きしに勝るとはこの事だ……と、ため息交じりに呟いている。


「明日、まだお前がこの学園に居るようなら、今のような甘い処分にはならないからな、よく考える事だ」

 そう言ってアルフレッド殿下は私の肩を抱き、学園の外に連れ出した……、って、まだ授業あるんですけど。

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