第19話 どんな姿でも……

 ベリアルは、アルフレッド殿下から断罪された後、『甘い処分にならない』の意味が分かったのか慌てて荷物をまとめ、辻馬車に乗って実家に帰ったようだった。

 ちょっと物騒な展開になったけれど、王宮の女官にもなれず実家に戻り平民として暮らすというノーマルエンドの1つとして落ち着いた。私的わたしてきに。

 後はこの世界を乙女ゲームの世界では無く、現実として受け止め、幸せになって欲しい。




 あの騒動が落ち着いた後、私たちは王宮内のダンスホールで婚約のお披露目をした。

 アルフレッド殿下は、王族といっても王位継承権も返上し、臣下に下る事が決まっているお方。

 そして私は、14歳のデビュタント前の侯爵令嬢。


 学友も参加できるちょっとしたパーティーという感じで開かれた。

 まぁ、これで万が一にでもアルフレッド殿下の王位継承権が復活してしまったら、また王族としてのお披露目があるんだろうなぁと思うと気は重いのだけど……。

 もう、王子達に頑張ってもらうしかない。

 なんせ、私の卒業までアルフレッド殿下は、王族として王宮内に留まるという事なのだから。



「だから、そんなにがっつくなって言っているだろ? 一応、今日の主役の1人なんだから」

 一通り、アルフレッド殿下と2人でしないといけない挨拶を終え、捨てられる予定のデザートを楽しもうとしていると、例のごとく兄であるローレンスが私に文句を言ってくる。

「一応って何よ。一応って。失礼しちゃうわ」

「だからせめて座って……」

 兄が私が持っているお皿を取ろうとすると、横から手が伸びて来てひょいっとお皿をさらっていった。


「アルフレッド殿下。もう挨拶まわりは終わったのですか?」

「まぁな。今日は気楽なパーティーだからな。だけどデビュタント後のお披露目では、ちゃんとしておいてくれよ」

 ケーキや焼き菓子が沢山乗ったお皿を見て、アルフレッド殿下もため息を吐きながら言っている。いや、どう見ても笑っているけど。

「ちゃんとして欲しかったら、この素敵なデザートたちを捨てるなんて、させないで欲しいわ」

「捨てる?」

 アルフレッド殿下も、私の兄でさえきょとんとして私を見た。


「使用人たちがパーティーが終わった後、残ったお菓子をザーっとゴミ箱に捨てているのを見て、もったいなくて」

「なるほど、善処させよう」

 ふむという感じで、言ってくれた。

 私の卒業を待つ意味もあるけど、アルフレッド殿下が王弟殿下として王族に残っているのは、今のままでは使いものにならないと分かった王子達の、再教育も任されているからなのだった。


「それで、お菓子はともかく。ダンスタイムが始まるのだが……」

 お菓子が盛られたお皿は、いつの間にか寄って来ていた使用人に渡し優雅に礼を執る。

「私とファーストダンスを踊って頂けますでしょうか」


 やっぱり、格好良いわ。アルフレッド殿下。

「喜んでお受けいたします」

 そう言って私も礼を執った。

 そしてホールの中央に行きダンスを踊りだす。


 乙女ゲームのヒロインが迎えるはずだったアルフレッドルートのハッピーエンド。

 ゲームのようなイチャラブ展開は無かったけど、私たちはそれで良いんだと思う。


 目の前の格好良いアルフレッド殿下も、王宮の研究室でのだらしないグダグダなアルでも、私はこの人の傍に居られるだけで、幸せなのだと思うのだから。



                                  おしまい


ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。

ありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る