第14話 アルフレッド殿下の思惑(アルフレッド殿下側)
俺が15歳になってすぐのお茶会。
婚約者候補や側近候補が集められ、俺への挨拶が行われる予定だった。
正直な話、俺は王都に残って王族としての義務を果たすつもりも、権威を振りかざすつもりも毛頭なかった。
国王から賜っている領地に引き籠る気満々だ。だからお茶会の冒頭で
「俺……いや私は、王位継承権を返上する。学園を卒業し、成人してしかるべき時が来たら、辺境に賜った領地を拠点に世界中の鉱山を見てまわるつもりだ」
と宣言した。今後、社交界に残るつもりは無く、鉱山を見てまわるのに妻もズボンを履いて同行させると言った。いや、本当に鉱山を見てまわるつもりは無いけど。
これでもう、どの家も俺の婚約者に……とは、言わないだろう。
案の定、会場はざわざわと、し始めた。涙ぐんでいる令嬢までいる。
「はい! はい! は~い! 私。わたくしを選んでくださいませ。王弟殿下」
そんな中、いきなり元気の良い声が響いた。見ると、幼い令嬢が思いっきり手を挙げながら、叫んでいる。
なんだ? こいつは。
その令嬢の横を見ると……、ああ、あいつは知っている。確か、側近候補のローレンス・カミンだ。
ふ~ん、カミン侯爵の娘か。悪くない。
あの時の俺は、打算だけで彼女、オリビア・カミンを婚約者に選んだ。
さすがに侯爵からは、7歳の娘の戯言だからと、
俺は学園が休みの度にオリビアを誘い、平民が着るような麻の服で城下町に遊びに行ったり、自分の領地に連れて行ったりしていた。
領地では俺が昔履いていたズボンを手直しして履き、共に川釣りや木登りも楽しんだ。
まだ子どもだからだろうか? オリビアは、本当に楽しそうに俺の後を付いてくる。
普段も、俺が子どもの頃我がままを言って王宮内に賜った、少し外れにある塔の部屋で二人で籠ってのんびりしていた。
ここは誰も来ない。部屋の外には護衛はいるけど、唯一俺が素のままでいられる場所だ。
だらしない姿でいても、オリビアは気にせず自分もソファーに転がってその辺に落ちている本を読んでいるようだった。
俺はその内、領地経営に必要な本や、王妃として必要な教養を付ける為の本を置くようになっていた。知ってか知らずか、オリビアは次々とその本を読んでいるけど……。
俺が学園を卒業する頃、オリビアは変な事を言い出し始めた。
講師として、しばらく学園に残ってくれないかという、打診があった頃だ。
自分には前世の記憶があり、ここはその世界でやっていた乙女ゲームの世界にそっくりだと。
そして、その乙女ゲームのヒロインが第一王子、第二王子と自分の兄、そして俺を攻略していくと言う。
また、女の子が好きそうな恋愛小説みたいな妄想だなと思っていると、原則として貴族しか入れない学園に平民の娘が入学したと噂が入って来た。
そしてオリビアが言っていた通り、王妃の二人の子どもはそのヒロインとやらに攻略されてしまったらしい。
ここまで来たら、オリビアの妄言だと笑っていられない。
あまり使いたくなかったが、俺は付与魔法で魔石に魔法抵抗と物理抵抗を施し、首からかけれるようネックレスにした。
とりあえず俺とオリビアとその兄ローレンスの分だ。
王子たちは、渡しても着けないだろうし、警戒されても困る。
俺は魅了という魔法を、あのヒロインとやらが使っているのではないかと、疑っていた。秘匿されている魔法だが、無意識に使う者もいるという。
ローレンスは、ネックレスを着けた事でヒロインに近付かないようになったとの事だ。
だけど困った。
王位継承権1位、2位がこの
兄達はとうの昔に、継承権を放棄して臣下に下り領地に籠っている。
俺も破棄はしているが、このままだと復活しそうだ。
幸いカミン侯爵はフルード家の派閥だから、この婚約が無かった事にはならないだろうが。
「そうですな。我が娘オリビアが承諾したら、この婚約を正式なものとして手続きを取りましょうぞ」
宰相と記録係の文官を連れて、公式な訪問をした俺に対しカミン侯爵は、そう許可を出した。
公式な訪問なので、この言葉は記録に残る。
後は、乙女ゲームのヒロインが王宮内の中庭で傷を負った事件から俺の所に来なくなったオリビアの承諾だけだ。
オリビアの部屋へ入る前、不安がよぎった。
あの事件は婚約者だった令嬢達からの嫌がらせなどではない。派閥からの警告だ。
そしてオリビアは、そのことに怯えて俺の所に来なくなった。
気楽な立場から、国王になってしまうかもしれない俺を、受け入れてくれるだろうか?
…………最初は、打算だったのに。
フッと自嘲の笑みが漏れる。
「私は、アルがいるところならどこでも良いよ?」
俺の不安など吹き飛ばすようにオリビアは言う。
いや、もっとよく考えろよ。その発言は公式に残るんだぞ。
「…………よく考えて返事をして欲しいと言っただろう?」
7歳の時から育って無いのか、お前は。そう思っていたら
「この騒動を収めるのに失敗したら、2人で国政がんばろう?」
そう言われてしまった。
俺は、オリビアのその発言で、覚悟が決まった。
何が何でも、この騒動を収め、2人でのんびりライフを送ろう。
思わず目の前のオリビアを抱きしめてしまった。
そして俺は、あと2つ同じ魔法付与が付いたネックレスを作り、国王の下へ向かった。
国王との打ち合わせをし、暗部の報告を受け、ヒロインを除く関係者全員を呼び出すことにした。あの娘を呼び出さなかったのは俺なりの温情だ。
国王の目の前で、誰に対してでも不敬な態度をとったら、平民の命などあっと言う間に吹き飛んでしまうだろうからな。
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