第13話 夏休みの日記が埋まらない

 夏休みの予定が大幅に変わったなぁ。

 これじゃ、夏休みの日記が埋まらない。

 だって、日記に書けないことだらけだもん。


 今日も今日とて、私は研究室のソファーで寝転がって本を読んでるし、アルフレッド殿下はまたネックレスを作っている。

 今度は何だろう? 

 隣国の歴史が書いてある本をボーッと読んでいたら

「出来た」

 と言ってホクホク顔で出て行った。

 って、え? 私、置いてけぼり?


 焦って扉の方へ行く。

 少し扉を開けると、むわ~んとした空気が入ってきて、護衛の人たちと目が合った。

「どうか、このお部屋の中でお待ちください。殿下はすぐに戻られますゆえ」

 どこから出て来たのか、私を監視しているという文官が言う。

「わかりました」

 私は、そっと扉を閉めた。

 居て良いのなら、大人しくこの部屋にいるよ。




 今、何時だろう? 小さな窓の外も薄暗くなっている。

 アルフレッド殿下がいたら、とうの昔にもう帰りなさいと言われているはずの時間だと思う。


「悪かった。思ったより遅くなったな。今日は屋敷まで送るよ」

 焦ったように戻って来たと思ったら、バタバタ帰る支度をさせられた。

 いつもと違い、アルフレッド殿下も馬車に乗り込んでくる。

 送ってもらう程、遠くも無いのだけど……、馬車だし。

「何かあったの?」

「ん? そうだな。上手くいけば、オリビアの学園卒業と同時に領地に戻れる」

 ニコニコ笑ってそう言っている。


「あっ、そうだ。しばらくしたら、陛下からの呼び出しがあるから」

「え?」

 陛下……から?

「今回の関係者……、ああ、ヒロインは身分的に無理だけど、カミン侯爵も呼び出されているし、謁見の間には俺と一緒に入るから横に立ってるだけで良いからな」

「今回のって、殿下たちの婚約解消の事?」

「そうだよ。そろそろ、目を覚ましてもらわなきゃな。国政を担う立場になるのだから」

 ため息交じりに言っている。そうだよね、乙女ゲームと違って、エンディングの後も生きていかなきゃならないんだもん。


 そうこうしている内に、馬車はうちの敷地内に入り屋敷が見えてきた。

「ああ。着いたね」

 馬車から降りる時は、アルフレッド殿下がエスコートをしてくれた。

 うちの使用人たちが、少し焦っているのが分かる。

 執事が私の父を呼びに行こうとしているのを、手で制して

「オリビアは、何も心配しなくて良いからね」

 そう言って、私の手の甲に口付けをしてまた馬車に乗り込み帰っていく。


 少しも、私には背負わせられないと思う程……。

 子どもなんだろうな。

 アルフレッド殿下にとって私は。

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