第12話 悪役令嬢の覚悟

「それで、カミン侯爵には、許可を得ているのだが」

 そう言ったところで、アルフレッド殿下は咳払いをする。

「オリビアは、この婚約を正式なものにする気はあるのだろうか?」

「え? それは、もう」

 イヤだって、最初から好きなんだから否応も無く。


「これは、記録に残るからよく考えて返事をして欲しい。まず、俺の立場が変わるかもしれない」

「アルフレッド殿下の?」

「ああ。夏休み前にあいつら……王子達がやらかしてくれただろう。それで、ヒ……いや、お相手の女性が危険な目に遭っているのは、オリビアも知っているよな」

 今、ヒロインって言いかけた。

「ええ」

 そのせいで、行きづらくなったんだもん。


「王子達の婚約解消は、まだ成立していない。2人とも国王陛下と交渉中だ。女性の方も自分の立場が分かっていないらしく、まだ王宮に遊びに来ている」

 ああ、まぁね。アルフレッド殿下狙いだったら、諦めずに行くよね。

 ここら辺は、宰相閣下たちの前では言えない部分だわね。

 それで私を防波堤にしたいのね。

「このまま、この騒動が続けば、俺の王位継承権が復活しそうなんだ。兄貴たちは早々に臣下に下って領地に逃げているし」

 王位継承権の復活?


「アルフレッド殿下はそれで良いのですか?」

「良い訳無いだろう」

 あ~、げんなりしている。何だかなぁ。

「だから、この騒動を収めて、あいつらのどちらかに王位を継いでもらうのが、一番だが。もし、失敗した時は俺と共に国政を担う覚悟があるかどうかという事なのだが」

 私?

「お前は、俺と共に世界中の鉱山を見てまわるつもりで、あの時手を挙げたのだろう?」

 そんな風に思われていたの? 私はただ、自分の最推しが婚約者を探していたから手を挙げただけなんだけど。


「私は、アルがいるところならどこでも良いよ?」

 あっ、しまった。つい、いつも通りの口調で……。

「…………よく考えて返事をして欲しいと言っただろう?」

 私の目の前で跪くような感じで座り、膝に置いていた私の両手を優しく包み込むようにしてアルフレッド殿下は言う。

 確かに王妃なんて立場は、極力避けたいけどアルフレッド殿下の隣でなら悪くないかもしれない……と、思う程には好きなんだよね。

「この騒動を収めるのに失敗したら、2人で国政がんばろう?」

 しまった。またもやタメグチで……。

 私が言いなおそうとワタクタしているとアルフレッド殿下から、抱きしめられた。


「ありがとう」

 あっ、え? ち……ちょっと、苦しい! 息が……。

 アルフレッド殿下の腕の中でバタバタしていると、私が苦しがっているのに気付いたのか手の力を緩めてくれた。


「ああ。ごめん。嬉しくて。大丈夫か?」

 …………私を気遣う言葉は最後なの? じゃなくて。

「さっきの言葉……言いなおさせてください」

 記録係の文官に向かって、叫んだ。だって、あんなタメグチが記録に残るなんて。

「言いなおさなくても、大丈夫です。オリビア様。貴族令嬢が王族に対して使える言葉に変換して記録いたしましたから」

 な……なるほど。有能ですね、文官様。

「ありがとうございます」

「いえ」

 言葉は少ないけど、ニッコリ笑ってくれた。


「じゃあ。少し落ち着いたら俺たちの、婚約お披露目でもしておくか。正式なのは16歳にならないと出来ないけど、オリビアが18歳になったら婚礼の儀をして、さっさと領地に行こうな」

 アルフレッド殿下は、上機嫌で言っているけど。失敗しなかったら……だよね?

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