第11話 とある王族の訪問

 王宮内での騒動があってからの数日。

 研究室に行かなきゃと思っているのに、行きたくなくて自分のお部屋でゴロゴロしていた。

 アルフレッド殿下とは、毎日行く約束をしているので心配しているかもしれない。

 かといって、手紙を書く気力もない。


 そう思っていると慌ただしく、侍女たちが入って来た。

 珍しい。

 侯爵家の侍女ともなると主人と共に王族の前に出る事もある。

 だから、王宮でも通用するマナーを徹底的に仕込まれているはずなのである。

 その彼女たちが、こんなに慌ただしく動くだなんて。

「オリビアお嬢様。お召し替え下さいませ」

 そう言って、侍女たちがクローゼットの中から謁見用に作ったドレスを出してきている。

 

 何事?

 王族のどなたかがいらっしゃると言うの? 先触れも無く?

 いや、それならまず湯あみをさせられるわよね。


 久しく締めていなかったコルセットを2人掛かりで締められ、ドレスを着せられる。

 湯あみをしていないのをごまかすかのように、香水がふられ髪を整えられた。

 まだ、16歳にもなっていないから結い上げたりは出来ないのだけど。



「え? 私の部屋? 謁見なのに?」

「そう承っております」

 なんで? 我が家にはそれ用のお部屋もあるから、たとえ私1人で謁見するにしても、そちらに移動という事になるのでは無いのかしら。

 それでバタバタと席が整えられているのね。

 しかも、どなたが……とは、誰も言わない。侍女たちも知らされてないのかしら。


 扉の外で誰かがやってくる気配がする。

 私は、礼を執り侍女が扉を開けるのを待った。


 最初に入ってきたのは、アルフレッド殿下。

 今日はきちんとした身なりをしている。

 その後に続くように文官が2人。

 うわっ。私でも顔を知っているよ。文官と思った内の1人は宰相閣下だわ。

 そうするともう1人は記録係か。


 なんで、私の部屋に公式訪問するかなぁ、この人は。


「顔をあげなさい。オリビア・カミン」

 なんだか、アルフレッド殿下がすごく余所行きの声を出している。イヤな予感しかしないよね。

 だけど私は素直に顔を上げた。


 こうしてみると乙女ゲームのスチル通りのイケメンなんだよね。

 違うのは、学園講師の制服を着てないことくらいだ。


「王弟殿下に於かれましては」

「ああ。挨拶は良い。そなたとは、仮とは言え婚約している仲だからな」

 は? いつ? いつ、婚約した? 仮って?

 多分私、すごく間抜けな顔をしたんだと思う。

 アルフレッド殿下が、口元に手を当て少し下を向いた。肩が震えてるよ。

 発言の許可ももらっていないし、私はどうすれば良いの?


「悪い、宰相。色々見逃してもらえないかな? 記録も最低限で」

 今さらだからさ。なんて、アルフレッド殿下が、宰相に言っている。

「殿下がよろしいのでしたら」

「ああ。悪かったな、オリビア。座ってくれる? 本当は、打ち合わせしてからこんな場を設けたかったんだけど、来ないから」

 そう言って、アルフレッド殿下が座ったから、私も真向かいの席に座った。


「あの。打ち合わせって」

「あ~、打ち合わせ……では無いな。何と言うか、意思の確認だよ」

「その前に、質問してもよろしいでしょうか」

「何?」

「わたくしたち、いつ仮でも婚約したのでしょうか?」

 一応。一応ね。宰相閣下いるし、記録係もいるから。タメグチは使ってない。

「俺が15歳の時のお茶会で、オリビアが『私を選んでくださいませ』って言った時かな?」

 げっ? あの時? でも、あれってうやむやになったよね。

 まだ、私が子どもだからって……。


「あのね、オリビア。考えたらわかる事なのだけど、いくらデビュタント前の子どもだからと言って、婚約者でも無いのに2人っきりで部屋へ籠れるわけがないだろ?」

「あっ、はい。確かに言われてみればそうですね」

 特に、私は傷モノ扱いになりますね。この世界だったら。

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