第6話 アルフレッド殿下との時間と思い出した事

「良いんじゃないか? もうこれだけゲームから離れてしまっているんだから」

「良く無いよ。私、泣いちゃうよ。アルから断罪されたら」

 乙女ゲームなんて、元々の婚約者や恋人関係にある女性は、ほぼ悪役にされちゃうんだからね。

 って、婚約者でも恋人でも無いけど。

「断罪など、するわけ無いだろう?」

 呆れたようにアルフレッド殿下は言っているけどね。

 ゲームでは、本当にヒロインとイチャラブしているんだよ。恥ずかしいくらい。


 断罪されなくても、精神攻撃半端ないよ。あれを目の前でやられたら。


 思わずアルフレッド殿下のシャツをきゅっと掴んでしま……たって、あれ? 私、さっきからずっとアルフレッド殿下から抱きしめられている感じになっている?

「あ……あの?」

「まだオリビアは子どもだからな」

 いや、確かに子どもだけど。

 …………ヒロインも私と同じ歳だけどゲームのアルフレッド殿下はイチャラブしてたよ?

 言ったら怒られそうだから言わないけど。


「いやあのでも、これは……」

 押し返したくらいじゃ離れてくれない。

「断罪されても、まだ社交界デビュー前の子どもの所業として処理されるんだろう?」

「それは……そうだけど」

「ならいつも通り、学園の帰りにはここに寄ると良い。幸い城と学園はすぐ隣だからな」

 離れてくれたので、にこやかに言っているアルフレッド殿下の顔が見える。

 私の頬は熱くなっているというのに、アルフレッド殿下はいつも通りだ。

「それって私に拒否権有るの?」

「そりゃ、有るさ」

 

 ウソばっかり。

 アルフレッド殿下がこんな風に言っている時は、私がどう思っていても、たとえ逃げようと思っていても、彼の思惑通りになってしまうんだもん。

 それが、イヤだった事なんて無かったけど。


 それから部屋を出て、王族しか入れないエリアを通り越してアルフレッド殿下は馬車の所まで護衛と共に送ってくれた。

 多分、これからしばらくは日課になるのだろう。



 


 丁度良いや、馬車に乗っている間に頭の整理をしておこう。

 この世界が私がやり込んでいた乙女ゲームの世界だと気付いたのはあのお茶会で、アルフレッド殿下を見た時だった。


 実は、生まれた時から、前世の事を覚えていたのだけど。

 何か元居た場所とは、かけ離れた世界に来たなぁ、くらいの認識だった。


 前世での死因は、受験勉強をしていて寝不足でふらふら歩いているところを、車にかれたんだか列車にかれたんだかしたらしい。

 実際、こちらの世界に転生して前世と同じくらいの時が経っているので、あまり詳細は覚えていないんだ。

 だから攻略対象のローレンスと私の最推しであるアルフレッド殿下が揃うまで、乙女ゲームの事などキレイに忘れていた。


 この乙女ゲームのシナリオは簡単で、ヒロインが3人の攻略キャラをそれぞれのルートで1人ずつ攻略するだけ。

 主に嫉妬に狂った婚約者の妨害があるけど、断罪したらお終い。

 すべてのルートをクリアした後、もう一度最初から始めると隠しキャラが学園講師として現れる。

 本来、逆ハーレムルートなんて、存在しない世界観。

 全年齢対象の身分差恋愛ベースのシナリオで、主に小中学生に人気だった。

 だからか、ヒロインもゲーム開始時13歳と他の乙女ゲームより低年齢なんだよね。


 そして今はゲーム開始後、1年と少し経った。

 このままいくと、夏休み前の学園内パーティーで断罪される。

 タイミングは、各ルート同じだったから一緒に断罪されるのかな?


 何もしていないのに、断罪されるというのも変な話だけど……。 

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