第4話 悪役令嬢達の雑談

「殿下方にも困ったものねぇ」

 私が兄の後を慌てて追っていると、先ほどと同じようなセリフが後ろから聞こえてきた。

 少し高い……鈴を転がすような声?

 私にはどうやっても出せない涼やかな声の持ち主は、エミリア・フルード公爵令嬢。アイザック殿下のご婚約者だわ。

 その横には、今までどこにいたの? と思っていた、フィリップ殿下のご婚約者エレン・バチェラー公爵令嬢。


 2人とも私の家と同じ、フルード家が率いる派閥の公爵令嬢だ。

 次の王妃派と呼ばれる派閥になるであろう、フルード家の。

 あの時、アルフレッド殿下のお相手として手を挙げて無かったら、この2人と次の王妃の座を巡って……。いやいやいや、無理でしょう。


「こんにちは。オリビア様」

 エミリア様が私の名前だけ言ったのであれ? と思い、ふと前を見ると廊下のはるか向こうにいってしまっている兄が、その場で礼を執り、そしてまた足早に歩いて行ってしまった。


 逃げたよ、ローレンス兄様。


「エミリア様、エレン様。ご機嫌麗しく」

「ああ。挨拶は良いのよ。麗しくなりようも無いし」

 そう答えるエミリア様の後方に何やら気配を感じ取る。いやだ、スルーしたかったのに。わざと気配を現したわね。


 エミリア様は、スッと私に近付き……同時にエレン様も近付いてきたのだけど。

 扇子で隠しながら私に耳打ちをしてきた。

「後ろのは、陛下が付けたわたくし達の監視なの」

 監視? なんで……。

「あなた、噂で聞かない? 殿下方がわたくし達の所業を近々断罪するって」

「噂……で、ございますか?」

 何だろう? 悪役令嬢がヒロインをイジメまくる乙女ゲームと違って、エミリア様もエレン様も全くと言って良い程ヒロインにかかわっていないんだけど。

「申し訳ございません。噂話に入れるほど親しくして頂いている方は、おりませんので」


「ああ。そうね。あなたはそうね。オリビア様」

 エレン様がクスクスと笑っている。

「そうよねぇ。アルフレッド王弟殿下の所に入り浸りですものね。羨ましいわ」

 エミリア様も笑っている。普段ならしないような表現だわ、入り浸るなんて……。


 確かに婚約の話も有耶無耶になってしまい、入り浸ってはいるけど、羨ましがられることなど何もない。

 何と言うか、ねぇ。百年の恋も冷めるくらい、だらしないよ? アルフレッド殿下って。


 まぁ、私は冷めないけど。

 それ以前に相手にされて無い感じなんだけどさ。


「今までの噂はどうでも良いの。だけど、これからはあなたにも監視が付くけど知らん顔していなさい」

 シレッとそんな事を言うエミリア様の顔を思わず私はガン見してしまった。

「あなたを守る為よ。あなただって、王宮に出入りしているでしょう?」

 相変わらず笑いを含んだ口調だわ。

 確かに私は、王宮内の外れにあるアルフレッド殿下の私室の一つに出入りしてはいるけれど。

 王宮内では、アルフレッド殿下が私にも護衛を付けてくれている……の、だけれど?


 エミリア様もエレン様も、にこやかな顔でその口調には笑いが含まれているのに、目が笑っていない。

「分かりましたわ。監視を受け入れます」

「そう。物分かりが良いのは、あなたの利点ね」

 お二人は、やっぱりにこやかにそう言った後、「あら。もうお昼休みも終わるのねぇ」なんて言いながら私から離れて行った。


 何だったのだろう?

 

 気付けば、私の後ろにも隠れるように文官の制服を着た男性がいる。

 先ほどエミリア様は文官と言ったけどコレって王室の暗部の人間なんじゃないかな? 一瞬だけ姿を現して、今度は気配ごと消えた。


 この世界、乙女ゲームのシナリオ通りに進むんだよね?

 いや、こっちの都合で逆ハーレム潰したけど。って、そもそも逆ハーレムルートなんて無かったし。

 王子ルートの悪役令嬢達も嫉妬してイジメ……なんてしていないけど。


 …………大丈夫、だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る