第40話

「逆に利用する?」

章生あきお律華りつかは同時につぶやいた。

「わたしがディープスペースにダイブして再現シミュレーション内のPCの通信ソフトを無効化し、更にそれを開発環境に使って拒絶反応を中和するプログラムを作成し、現実世界の105にリモートインストールします。アルファユニットのコピーが拒絶反応さえ起こさなければ、分離したアルファの心は無事一つに戻れる、という作戦です」

ここまで一気に話して綾可あやかは大きく息を吸った。

「その作戦は上手く行ったんですか?」

この章生の質問に答えたのは論里ろんりだった、

「当り前でしょ!アヤカは天才ハッカーなのよ」

「その呼び方は誤解を招くのでやめてと言っているでしょう‥

でも、オリジナルとの接続が切れたアルファユニットのコピーが本当に暴走したのは計算外でした」

「そうすると、アルファの心はハヤセの倉庫に保管されている105に?」

「今回の事故で保管されている105に調査が及ぶ事を恐れた黒崎じんさんは、隠匿いんとくする為に一般の倉庫に移送しました。しかし、セキュリティはハヤセ開発部の倉庫とは比ぶべくもない。

博士はアルファの新しい躯体くたいを用意してハヤセ関係者になりすますと、倉庫の機体から新しい躯体にアルファユニットをせ替えて持ち去る事に成功しました」

「105は制御コンピュータが無い状態に?」

「いえ、105には博士が開発したシグマユニットが載せられました」

「シグマユニット?」

聞き覚えの無い言葉に章生は当惑した。

「博士は『新たな希望』だと言っていました」

「新たな希望‥」

言葉を復唱した律華の頬を訳もなく涙が伝った。

「もう一つ、アルファの新しい躯体とは何ですか?」

章生の質問に再び論里が答えた、

「だから、新しい生命体としての体よ。当然でしょアルファはもうロボットと生物の境界線を超えちゃってるんだから‥」


―「こんな荒唐無稽こうとうむけいな話、誰も信じないだろうな‥」

章生は大きく欠伸あくびをすると、作成中の報告書から最後の項目を削除した。

(黒崎じんはPDの兵器転用についてこんな事を言っていた『自立行動できるロボットが人間に代わって戦争をすれば人間の犠牲者を出さないで済む、それは平和に貢献する技術なのだ』と‥でも、もしもロボットが人間と同じ心を持ってしまったとしたら、戦争に巻き込まれたそのロボットが犠牲者でないと誰が言い切れるのだろうか‥)


(第一部 完)

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