第38話

「でも、PD-105にアルファユニットを搭載しても、スケープ能力を持ったドライバーでなければ動かせないんでしょう?」

律華りつかが疑問を投げかけた。それに答えたのは章生あきおだった、

「ところが、黒崎さんはスケープ能力者に代わるものを見つけた‥それがアルファユニットのコピーだったんですね」

綾可あやかが後を続ける、

「そう言う事です、コピーした二つのアルファユニットを共鳴させることで隠されたアルファの自己防衛機能が開放されることを発見してしまった‥」

「つまり、それが暴走事故の原因だった訳ですね」

「それは‥自己防衛機能が働いている状態のPDは確かに危険な存在ですが、アルファとラムダOSの機能は必要に応じて何時いつでも切り替え可能に制御されていましたから、それだけで暴走することはないんです」

「二つのユニットを共鳴させた事がPD暴走の原因ではないんですか?」

「もちろん原因には違いありませんが、直接原因かと言えば、そうではないということです。

黒崎さんはオリジナルのアルファユニットがどれか分からないと言っていましたが、それは嘘です。モーターショーに出展された105に搭載されていたアルファユニットはコピー、オリジナルのアルファユニットが搭載された105は倉庫に保管され、使用される事はありませんでした」

「オリジナルとコピーに違いはあるんですか?」

「どんなに条件を整えても100パーセント完璧なコピーは不可能なんです。このわずかなエラーが機能上には現れなくてもオリジナルとコピーに決定的な違いを生みます。

そしてあのモーターショーの日、ロンリの中に封印されたアルファの心が、オリジナルのアルファユニットと再会した‥」

「約束の時が来たのよ、あの日、二つに分かれて封印されたアルファが、再び一つになるはずだった‥ジャマさえ入らなければね!」

論里は憮然ぶぜんとして言った。

邪魔じゃま‥とは甲斐冬馬かいとうまさんがPDー105を止めた事ですか?」

章生が訊いた。

「そう、お陰でアルファの心は2カ所に分散して、あたしの記憶も戻りかけのもやもやした状態になっちゃったワケよ」

「しかし、勝手に動いている105を放っておいたら観客に被害が出ていたでしょう」

「それは分かってる、あの場では最善の対応だったって」

「ではアルファの心は今でもあなたの中にあるんですか?」

「アルファはもう、あたしの中には居ないわ」

「それが村主調査官の気にされている、事故再現シミュレーションの中にわたしが居た理由です。

それを状況を整理しながら説明したいと思います‥」

そう言って綾可はこれまでの出来事エピソードの結末を話し始めた。

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