第37話

綾可あやかは話を続けた、

「わたしはその話を桐生きりゅう博士に伝えました。そしてそれから、わたしも記憶を封印し、全ては博士に託されたのです。

この事故をきっかけに計画は仕切り直され、アルファはその存在自体が機密事項になりました。

博士は、新しい設計書をADSに入力してラムダOSを開発しました」

「ADSが作ったアルファユニットのプログラムコードは残っていたのよね?もう一度アルファを作ろうという話は出なかったの?」

律華りつかが訊いた。

「アルファのプログラムはそれ自体に機能は記述されてなくて、二元論に基づく原始の心を呼び出す11次元の量子計算式が記述されているだけです。

これによって生成された心の構造体ストラクチャー唯一無二ユニークなもので、もう一度同じものを作ろうとしても生成済みの構造体を呼ぶだけで新しく作られる事はありません。

しかも構造体は周囲のパラメータを取り込んで変化していきます」

「なるほど、二度と同じ心は作れないって事ね」

納得してうなずいた律華を見て章生は溜息ためいきをついた、

「なるほどなんですね‥」

「例えるなら魔法の呪文みたいなものです。一つの呪文で呼び出せる心は一つ、もし別の心を呼び出すとしたら新しい呪文を考えなければなりませんが、それは一度でも奇跡的な出来事なのにもう一度奇跡を起こすって事です」

「では、黒崎さんがPD-105に搭載したアルファユニットのコピーとは何だったんでしょうか?」

章生の質問に綾可が答えた、

「アルファの心が分離されたアルファユニットに残ったものは自己防衛本能でした、アルファユニットが破壊されてしまったら、心の戻る場所が無くなってしまいますから。

でもそれは無差別な破壊行動に繋がりかねない危険なものです」

「アルファユニットは機密事項になっていたんですよね、どうやって黒崎さんは存在を知る事が出来たんでしょう?」

「アルファは一度だけテスト施設以外で使われた事があるんです。

3年半前、中東のペドロギスタンで内戦が起こり、新政権を支援するロシア政府を、政権奪取を狙う軍部が核ミサイルで脅すという出来事がありました」

「それは知っていますが、ロシア軍が施設を制圧した筈では?」

「いいえ、強硬手段を使えば簡単に制圧出来たかもしれませんが、核ミサイルを使われてしまったら元も子もありません。作戦は隠密で行われる必要がありました。

そこで白羽の矢が立ったのが開発中のPDでした。

ロシア軍が開発していた光学ステルス技術と合わせる事で軍施設に潜入出来ると考えたのです」

「日本政府はPDの海外使用を許可したんですか?」

「裏で取引があったようですが、日本政府は黙認という立場を取ったようです」

「しかし、実際に使われたのはPDではなくアルファだったという事ですよね?」

「博士は閉鎖されたハヤセのロシア工場でアルファの機体を復元していました。

更にアルファを操縦できる第3のスケープ能力者も発見していました」

「第3のスケープ能力者?」

「PDのテストドライバーをしていた男性です‥

作戦の内容を知った博士はPDでは失敗の可能性が高いと考えました」

「それでアルファを使ったと‥それを知っているのは?」

「桐生博士とハヤセモータース社長の二人だけです。でも、記録映像がネットに漏洩ろうえいしてしまった、黒崎さんはこの映像と偶然見つけた博士のメモ書きからロシアにアルファがある事を突き止めたのです」

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