第35話

「あの事故とは、モーターショーのPD-105暴走事故ですね」

章生あきおの言葉に最初に反応したのは論里ろんりだった、

「そう、その時PD-105におそわれたアイドルの新谷しんたにろんり、知らない?」

「ああ、確か警察の資料にそんな名前が‥」

「それがあたしよ!新谷は芸名なの」

論里の話を綾可あやかが引き継いだ、

「ロンリが事故に巻き込まれた事もあって、不本意ではありますが方法を使ってPD-105について調べました。その中で幼い頃の記憶の人物がPD-105の開発者、桐生森雄きりゅうもりお博士だと知ったのです」

「それが分かれば博士を見つけ出すのは簡単だったわ」

「博士は、博士は生きているの?」

律華りつかが興奮気味に訊いた。

「もちろん生きてるわよ」

「本当ですか、博士は、今、どこにいるんですか?」

章生は気持ちを抑える様にゆっくりと訊いた。

「どこにいるのかは分かりません。見つけたと言っても現実世界での事では無くて、わたし達の持つ能力によって博士の心と接触したという事です」

「詳しく教えて貰えますか」

「あたしたちは相手が話した言葉からイメージとか気持ちとか概念とかを受け取れるのよ」

「それだけではありません、一度交流を持った人とは、離れた場所にてもその人の言葉を受け取る事が出来るようになるのです」

「スケープ能力‥あなた達はスケープ能力者なのね!桐生博士はそれを知っていた‥なのに何でスケープ能力者は見つからなかったなんて‥」

律華は混乱していた。その疑問に答えたのは章生だった、

「幼かった二人を危険に巻き込まない為じゃないでしょうか。特殊能力に対する世間の反応は未知数ですから」

綾可は冷静に話を続けた、

「わたしもそう思います、記憶の中の博士はとても優しい人でしたから。

それで、ここからは博士から受け取った5年前の話になるのですが‥」

「ちょっといいですか、私が知りたいのは事故再現シミュレーションの中に、何故なぜあなたがたかという事なんですが?」

章生が割り込んだ。

「すいません、それを説明する為にもう少しこの話に付き合ってください」

「失礼しました、お願いします」

「有人二足歩行ロボット開発当初、博士がロボット制御システムとしてADSに設定した要件は、思い切り簡単に言ってしまえば、人間と同様の動きが出来て、ドライバーの思った通りに操縦できる、というものでした」

「確かに理想的なロボット制御システムですね」

「ところが、その要件を満たすためにADSが出した答えは予想外のものでした」

「予想外とは?」

「人間の心を持つロボット」

「それは予想外というか‥ADSは心みたいな観念的なものも作れるんですか」

「心が何かは分からなくても、心の働きとしか表現出来ない現象があるのは確かです。ADSはそれを作り出す事に成功した、もちろんそれは奇跡と呼べる程低い確率でしたが‥」

「それがアルファだったんですね」

「はい、ただし開発陣の興味はアルファの性能にしか無く、アルファが心を持っているかいないかはどうでもいい問題でした、桐生博士を除いては‥」

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