第33話

事故から12日 城杜しろもり医科薬科大学病院

「あれー?僕、何でここで寝てるんすかね‥」

能天気な台詞せりふとともに小久保直哉なおやの意識が前触れなく戻った。それはまるで、目覚める事を邪魔じゃましていた何かが忽然こつぜんとこの世界から消えてしまったかのようだった。


事故から17日 国土交通省事故調査室

事務所でPCに向かっている章生あきお、経産省に勤める友人の新堂高次こうじがやってきた。

「お疲れー、報告書は進んでるか」

「事実関係が複雑でね、どうまとめたらいいのか悩み中だよ」

「一次報告書なんて事実だけ並べたら終わりじゃないのか?」

「今はっきりしてる事実は、黒崎じんがPD管理サーバーとの通信を偽装ぎそうしつつ、外部コンピュータに105の制御を迂回さうかいせるプログラムを使ったって事だけだ、それだと105自体は問題無いって事になってしまう」

「科警研がOSのコードデータを押収して解析かいせきを始めたんだろ?その結果を待ちゃあいいじゃないか」

「コードデータを解析しても、恐らく真相には辿たどり着けない。誰が、どんな目的で、何をやろうとしたのか、そっちの方を解明しないと」

「ふーん‥お前、何かつかんでるんだな?まあ、今はくまい。取りえずお前には感謝してるんだ」

「感謝?経産省は105の開発を推進しているんだろ」

「経産省とロボット推進委員会の一部議員が秘密裏ひみつりにロボット技術の兵器転用と海外輸出を画策かくさくしている」

「そのうわさは本当なのか?」

「ああ、しかし経産省の大多数は兵器の輸出には反対しているんだ。そこで俺は推進派を装って情報を収集していたんだが‥そこにあの事故だ、お前に情報を提供すれば何か証拠を見つけ出すだろうと考えたわけさ」

「僕を利用したってわけか‥」

「ギブアンドテイクだよ、俺の情報だって調査の役に立っただろ?じゃあ報告書、楽しみにしてるよ」

帰ろうとした新堂に章生が声を掛けた、

「それで、わざわざ国交省まで何しに来たんだよ」

「そうそう、肝心な事を忘れるとこだった。聞いたか?PDー105の試作3号機が盗まれたって」

「え、冗談だろ?」

「サーバーにハッキングして出荷案内を捏造ねつぞうした上、ご丁寧ていねいにハヤセの輸送車に偽装したトラックで現れ、白昼堂々持ち去ったんだとさ」

「大胆で、しかもかなり組織的だな‥」

「105が武器に転用できる事を知った武装勢力かもな」

「武器を奪って戦争でも始めるつもりなのか‥」

章生の言葉を聞いた新堂は意味ありげな笑みを浮かべた、

「‥武器を使う戦争より怖い戦争もある、なあ、戦争はもう始まってるんだぜ‥」

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