第32話

城杜しろもり駅構内

「短い間でしたがお世話になりました」

並んで歩きながら章生あきお丹下たんげに別れの挨拶あいさつをした。

「いやあ、大したお役には立てませんでしたが‥PD-105の発表会は中止されたそうですな?」

「はい、何とか寸前で105いちまるごが世に出るのを防げました。でもそれは暴走事故が再発したという事実によるもので、本来なら暴走を防いだ上で原因を究明しなければならなかったのに、不甲斐ふがいないですね」

「それは仕方ないのでは、現状では暴走の原因と思われるアルファの存在を証明する方法すら無い訳ですからな」

「もう一つ、ハヤセモータースが裏で黒崎さんに、105を無人兵器にする為のシステムを開発させていたという事も隠蔽いんぺいされたままになっています」

「それは我々警察の仕事でしょうな。会社が無用な圧力を掛けなければ黒崎じんがこんな無茶をする事も無かったかもしれない、それはそれで許しがたい事です」

「丹下さんは、まるで正義の味方ですね」

「いやあ私は単なる一介の警官ですよ、正義の味方と言うのは‥そうですなあ、危険をかえりみずに飛び込む事の出来る甲斐冬馬かいとうまさんの様な人を言うんではないですかな?」

「甲斐さんですか‥なるほど、確かにそうですね」


城杜市郊外の霊園

冬馬と花束を抱えた佐伯さえきがやってくる。

「冬馬、私は面識無いんだけどついて来てよかったのかしら?」

「そりゃあ、墓参りだって賑やかに越した事は無いだろ」

風間一男かざまいちおさんてどんな人だったの」

「とにかく責任感が強い人だったよ。そして優しい人だった、俺がいたレーシングチームが資金難で解散した時、すでにチームを離れていた一男さんがPDのテストドライバーとしてハヤセに誘ってくれたんだ。また一緒に働けるって楽しみにしてたのにな‥」

「急に亡くなったって‥」

「何かおかしい感じはしたんだ。久しぶりに会った一男さんは、以前と違って憂鬱ゆううつな顔ばかりしてた」

「精神的ストレスでもあったのかしら」

「かもな、でも理由は教えてくれなかった‥俺をPDのテストドライバーに誘ってくれた時言っていたのは‥」


―3年前、城杜港ポートタウン建設現場を見下ろす丘の上に立つ冬馬と一男

「冬馬、俺はPDのドライバーという仕事にほこりを持っていたんだ、でもそれは違った。今、PD開発は危険な方向に向かっている、それを動かせる俺は危険な存在だ」

「一男さん、何言ってんですか」

「桐生博士はこの流れを変えると言ってくれた、今後のPD開発に必要なのは本物の操縦スキルを持つお前の存在だ。俺はこれからサポート側にまわる事に決めたよ‥」


「危険な方向か‥桐生博士がいなくなった後、私達が知らない所で危険な開発は続けられていたのよね‥」

「ああ、今回の一件でそれも止まりゃいいがな」

「多分、兵器開発は続くでしょうね、全ての責任を黒崎ひとりに押し付けて‥」

一男の墓が近づくと、墓の前には先客が立っていた。

目つきが鋭く、がっしりした体格のその男は、目ざとく冬馬たちを見つけると話しかけてきた、

「風間一男氏のお知り合いの方ですか?」

「ああ‥」

「お見かけしたことがあります、PDテストパイロットの甲斐冬馬さんでは‥失礼しました、先に名乗るのが礼儀ですね。自分はこういう者です、立場上、名刺はお渡しできないのですが」

男が差し出した名刺には『防衛省陸上自衛隊戦術研究所長 荒木戸武士あらきどたけし』と書かれていた。

「私はPD開発テストチーム主任の佐伯良樹よしきといいます」

「甲斐です。一男さんが陸自にいたなんて聞いた事ないけど‥」

「風間氏と知り合ったのは自分が自衛隊に入る前、世界の戦場を転々としていた時代の事です」

「戦場なんて、それこそ一男さんのイメージに無いけどな‥」

「国家機密にも関係する事なのでこれ以上は教えられないが‥これだけは伝えておきます、風間一男は世界を救った英雄だった、世間の誰にも知られる事は無かったとしても」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る