第31話

城杜県警 取調室

丹下たんげによる黒崎の取り調べが行われていた。

「‥博士がアルファユニットを取り返そうとしてつかみかかって来て、僕はそれを振り払った。その拍子ひょうしに博士は転倒し動かなくなった。慌てた僕はその場を離れた」

「負傷した桐生森雄きりゅうもりお氏を見捨てた訳ですな」

丹下は黒崎の話を補足した。

「けど、しばらくして戻った。でも、もうその場に博士の姿はなかった。だから博士が死んでいるのか、今どこにいるのか僕は知らない、本当だ!」

「それから、奪ったアルファユニットを持ち帰り複製してPD-105に載せていったと‥本物のアルファユニットは今どこにあるんですか?」

「3機ある試作機のどれかに搭載されている筈だけど、どれが本物かは僕も覚えてない。だって、そんなの今更どうでもいい話だからね」

話を聞き終えた丹下はため息まじりに言った、

「私にはロボットの事もコンピュータの事も良う分からんのですが‥あなたのやりたかった事は、他人を傷付けてでもやらなければならなかった事だったんですか?」

「それは!‥それは‥」

黒崎は顔を歪めて黙り込んだ。


―10年前 とある市民会館

桐生教授による『生物とロボットの境界線』に関する講演が行われている。

「一般に誤解されやすい事例として、高性能なコンピューターを使えば、生物、更には人間と同等のロボットが作れるのではないか?というものがあります。

確かに、思考ルーチンを積み重ねていけば、生物のように振舞うロボットは作れるでしょう。しかし、それはプログラムに従って動いている事に変わりはありません。

みなさんはプログラムに従って動いているわけではありませんよね?自分の意思に従って行動しているはずです。

私の目標は、意思を持って人とコミュニケーションしようとするコンピューター、それを搭載したロボットを生み出す事です。その時、ロボットは機械と生物の境界線を越え、人間の真のパートナーになったと言えるでしょう」

高校生の黒崎が手を挙げる。

「教授、そのロボットを作る目的は何ですか?」

「人間は弱い存在で、その行動範囲は限られています。私の考えるロボットの目的は、私達を乗せて新たな領域に連れて行ってくれる、そんな存在になる事です」


講演の後、桐生に駆け寄る黒崎。

「桐生教授!」

「君は先程の‥」

「黒崎じんと申します。論文を読ませて頂きました、感動しました。今日の講座も素晴らしかったです」

「それはどうも」

「僕、将来は城杜しろもり大学に入って、教授の研究をお手伝いしたいと思っているんです!」

「いやあ、それは楽しみですね‥」

(あの頃の僕は夢にあふれていた‥そして、博士を尊敬していた‥)

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