第30話

ロボットモーターショー会場

「慌てずに、係員の誘導に従って避難してください!」

会場はすでにパニックにおちいっていた。

佐伯さえきはスタッフとあわただしく動き回っていた。

「システムはモニターできないの?」

「はい、まったく‥」

「強制シャットダウンは?」

「外部からのアクセスを一切受け付けません」

「じゃあ、残るはプランBのみか‥モニターをポートタウンの2号機に繋いで!」


―5分前、ポートタウン工事現場 工事車両駐車場

冬馬とうまは輸送トラックにせられたPD-105試作2号機のコクピットに居た。

『無人の105が動き出しました!』

モーターショー会場から生配信していたアナウンサーが叫ぶ。

「嫌な予感が当たったか‥会場に行く、トラックを出してくれ」


現在、ロボットモーターショー会場

「冬馬、緊急事態よ!」

佐伯がモニターに映る冬馬に呼びかけると、間髪入れずに冬馬が答えた。

『もう準備はできてる』

会場の裏手側、搬入用シャッターが開く。そこには冬馬の乗るPD-105が立っていた。

『今日は無人なんだな?なら、手加減なしでいくぜ』


暴走したPD-105は冬馬の操るPD-105を視界に捉えると、敵に襲い掛かる野生の熊の様な勢いで突進してきた。

冬馬は間一髪でそれをかわした。

すると、今度は格闘家を思わせる俊敏しゅんびんな動きで間合いを取ると、次の攻撃に備えて身構えた。

しばらにらみ合いが続いた後、二機はほぼ同時に距離を詰める。

柔道の組み手争いの様に腕を払い牽制けんせいし合う二機のPD-105、その勢いは互角に見えた。

『冬馬、観客の避難が完了したわ。もう遠慮なしに暴れていいわよ』

佐伯から通信が入る。

「遠慮してるつもりはないんだけどな。こいつ本当に無人で動いてるのかよ‥」

冬馬は珍しく余裕のない口調で答えた。

「でも、分かったぜ、こいつは俺が今までテストで蓄積ちくせきした動作パターンファイルを使って動いてるんだ、なら、俺が今までの俺を超える動きをすればいい」

冬馬は一旦相手から離れ背中を向けると、回し蹴りを繰り出した。

「絶対やった事無いヤツならどうだ!」

キックはみごとにヒットして、無人の105は横に飛ばされ倒れた。

「ただでさえバランスの悪いPDでキックするなんて‥」

佐伯は呆れた。

冬馬が操縦する105は倒れた105の腕を取り、柔道の腕ひしぎの要領で機体を抑え込む事に成功した。

それから冬馬はハッチを開けると、無人の105に飛び移り緊急停止ボタンを押した。

電源が強制切断されたPD-105は、そのまま動かなくなった。

「これで‥ミッションコンプリートだ‥」

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