第29話

ハヤセモーターススタッフルーム

「盗んだんじゃない、僕はアルファを取り返したんだ‥」

黒崎は自分に言い聞かせる様に言った。

「それで、桐生きりゅう博士はどうしたんですか?今どこにいるんですか?」

章生の質問に黒崎は口籠った。

「し、知らないな‥」

その一瞬の沈黙は最悪の結末を想像させるに十分だった。

「まさか‥」

「署で詳しい話を聞かせてもらえますかな?黒崎さん‥」

丹下たんげが黒崎の腕を取った。

「・・・・・」

「電源を切断してPCを押収します」

科捜研の樺島かばしまが黒崎のPCを操作する。

「そこ、勝手な事をするな!」

黒崎が血相を変えて振り返った。


デモンストレーションバトルが中断した特設会場

休止状態だったPD-105が突然動き出した。

「え、誰が動かしてるの?」

佐伯さえきが周囲のスタッフに聞く。

「もうドライバーは降りてますけど‥」

スタッフの一人が答える。その横に紙コップを持ったドライバーがキョトンとして立っていた。


ハヤセモーターススタッフルーム

「大変です!無人のPD-105が動き出しました!」

警備に当たっていた警官がそう言いながら部屋に飛び込んで来た。

「外部とのアクセスはすでに切れています」

樺島が言った。

「どういう事ですか、黒崎さん」

丹下の問いに黒崎はつぶやくように答えた、

「勝手にPCの電源を切ったりするからだ、せっかく安定していた二つのアルファのリンクをいきなり切断したら何が起きるか‥」

「二つのアルファのリンク?」

章生が聞き返す。

「全ての105いちまるごには、アルファユニットが搭載されている、まあオリジナルは1つで他はコピーだけど」

「事故を起こした105を分解した報告書にそれらしいパーツは記載されていませんでしたが?」

「調査官はアルファユニットを何だと思ってる?105に搭載されてる次世代量子コンピュータ、その正体こそアルファユニットなんだよ。

アルファのプログラムもラムダOSもその中に格納されているのさ」

「科捜研でソフトウエアを解析した結果にはラムダOS以外のプログラムは発見出来ませんでしたが」

樺島が報告する。

「それは外部からはラムダOSしか見えないからさ。コアにあるアルファには外部からはアクセスする事ができないんだ」

「アクセスできないのにどうやってアルファを起動するんですか?」

質問した章生を馬鹿にする様に黒崎が答える、

「一々起動しているのは表面のラムダOSだけさ。いいか?アルファは最初に起動されて以降、一度もシャットダウンされていない。だから、みんな桐生博士にだまされたって言ったんだよ」

「博士は何故そんな事を‥」

「だってアルファに発生した人口意識はシャットダウンした瞬間に消滅してしまうんだ。ただの人工知能じゃないだぞ、この画期的な発明を何で捨てる事ができる?」

「ちょっと待ってください、アルファに直接アクセスできないなら、やはり使用する事は出来ないのでは?」

章生が訝しげに訊いた。

「ふふふ‥そこだよ、博士にも思い付けなかった事を僕は思い付いたんだ、人間に制御できないなら、アルファに制御させればいいとね。そこでアルファユニットのコピーを作り、二つのアルファを共鳴させたんだ‥まさに狙い通りだったよ、僕はアルファの制御に成功したんだ」

黒崎は得意げに答えた。

「待ってください、それではPDを人間が制御している事にはならないのでは?」

章生の質問に黒崎は冷笑を浮かべた、

「PDの制御はアルファに任せればいい、アルファは人間より高い知能を持っているんだから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る