第26話

ディープスペース内でデモンストレーションバトルが始まる。

「さあ始まりました!どちらが勝つんでしょうか、楽しみですね」

女性リポーターの当たり障りのない言葉に対し、ろんりはロボットオタクらしい答えを返す、

「パワーならPD-105、速さなら軽量なティーモ、接戦になるんじゃないでしょうか」


城杜しろもり大学ロボット研究室

「これって‥」

「ああ、絶対変だよな‥」

ディープスペースでPD-105のシミュレーションをしていた学生達がひそひそと話をしている。

「そこ!何かあったなら、とっとと報告したまえ」

川田教授がイライラした声で問い詰めた。

「PD-105の動きが変なんです」

「どう変なんだ?」

「動きが速すぎるんです。おい‥嘘だろ‥」

律華が学生のPCをのぞき込む。

「‥何これ‥想定速度の‥3倍?」


章生は十数台のモニターでシミュレーションと現実、二つのモーターショーをチェックしていた。

『誰か105のOSを入れ換えたかね?』

モニター越しの川田教授が呼びかける。

『OSを入れ換える時間なんて無かったっしょ。PD管理サーバからダウンロードされた動作パターンのせいじゃない?』

氷室が答える。

「どうかしましたか?」

章生が訊く。

『動きが想定とまるで違う、OSを入れ換えたとしか思えん』

『ふーん‥面白いね、調べるからちょっと待ってて』

『‥OSが初めから二つインストールされていたとしたら‥』

律華は誰に向けるともなく呟いた。


『取り敢えず分かった事だけ言うよ。105はシミュレーション内のPCを中継して、PD管理サーバ以外の外部のコンピュータと通信してるんだ。』

氷室の言葉に章生が疑問を投げる。

「事故当日も同じ外部コンピュータにアクセスしたという事ですか?」

『そだね、つまりそのPCの持ち主が犯人、って言うか外部コンピュータを使って105に何かしたって事になるね。‥調査官、出番が来たんじゃないですか』

「はい、ディープスペースにダイブして通信元を調べてきます」

章生はVRゴーグルを装着しながら言った。

『くれぐれもシミュレーションへの干渉は慎重にね』

氷室が注意を促す。

「了解しています」


ディープスペース内 ロボットモーターショー会場

物陰ものかげに現れる章生。

「これがシミュレーション?現実としか思えないな‥」

『はじめてのダイブで感動しているのは分かるけど、急いだ方がいい、時間は限られてるよ』

イヤホンから氷室の声がする。

「そうでした」


デモンストレーションバトル中の特設ステージに来る章生、すでにPD-105とティーモの対戦が始まっていた。

舞台袖ぶたいそででは佐伯さえきがモニターを見ながら指示を出していた。


「氷室さん、どちらに向かえばいいですか?」

章生はイヤホンのマイクに話しかけた。

『待って、今、WiFiワイファイのIPアドレスを追っかけてるから‥分かった、電波の出所でどころは関係者控室3だよ』

「分かりました、すぐに向かいます」

「やりすぎよ、直チン!」

佐伯の声が響いた。ステージではPD-105がティーモの腕を引き千切ちぎろうとしているところだった。

「始まったか」

章生は関係者控室3に向かって走り出した。


関係者控室3の前に来た章生、ドア横のプレートには『ハヤセモーターススタッフルーム』と書かれていた。

(この部屋にいるはずなのは、黒崎じん‥)

章生はドアを開けようとするが、ドアにはロックが掛かっていた。

「くそっカギが‥」

『しょうがないなあ、サービスですよ』

イヤホンから氷室の声がすると、カチャっと音がしてロックが解除された。


ドアを開けて部屋に飛び込む章生。しかし、そこにいた意外な人物を見て章生の足は止まった。

「君は‥蓼丸たでまる綾可あやかさん?どうして君がここに‥」

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