第24話

それからの一週間を章生あきお丹下たんげは慌ただしく過ごした。

再開される事になったモーターショーを、事故当時のモーターショーに近付ける為、四方八方に手を回して関係者を再結集させなければならなかったからだ。しかも行動がサンプリングされる事を意識してしまっては精度が落ちる為、シミュレーションの件は伏せたままで各所に協力を仰がなければならなかった。


シミュレータをプログラミングする氷室と検討した結果、一般参加の観客は違っていても影響は少ないだろうという事になったが、残りの会場スタッフ、企業スタッフとマスコミ関係者だけでも数百人になり、その全ての人達を理由も説明せずに事故当日と同じにしてくださいと要請しても色よい返事が得られる筈もなかった。


それでも様々な手を使って、モーターショー二日前には八割の協力を取り付けていた。


国土交通省 事故調査室 会議室

『残りは肝心のドライバーだよね、小久保直哉こくぼなおやの意識、まだ戻ってないんしょ?』

リモート会議システムのモニターに映る氷室が、参加者名簿をめくりながら言った。

「ハヤセモータースUSAから同レベルのドライバーが来るそうですが」

『問題はスキルじゃなくて性格が似てるかって事だよね』

「そうですね‥」

『と、言う訳で作っといたよ、小久保直哉のクローン』

ドヤ顔の氷室がカメラをPCの画面に向けると、まるで生きている様な直哉が映っていた。

「小久保さん?」

章生が問いかけると直哉のクローンは能天気な声で答えた、

『ハイ、そうっすけど‥』


城杜港 イベントホール『ドリーメッセ』

テレビ中継車に偽装したトラックの車内、章生と丹下は会場内の監視カメラ映像をチェックしていた。

「とうとうモーターショー当日が来ましたな」

丹下の言葉に章生は深くうなずいた。

「これがラストチャンスになるでしょうから、でも事故原因を解明しないと‥氷室さんシミュレーションの状況はどうですか?」

DDR社長室からリモート参加の氷室が答える、

『今、初期パラメータにモーターショー会場の監視カメラ映像からのリアルタイムデータを反映させてるとこ。僕の計算では現実のデモンストレーションがはじまる5分前にはシミュレーション内で事故が発生するはずさ』

「よろしくお願いします。‥川田教授もPD-105のシミュレーションお願いします」

城杜大学のロボット研究室では川田教授と、お目付け役の律華りつかが待機中だった。

『ああ、わざわざ念を押さんでもちゃんとやるから安心したまえ』

モニターに映る川田は渋々答えた。

『私もチェックしているので大丈夫です』

律華は川田の背後で手を振っていた。

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