第23話

国土交通省 事故調査室

「DDRが事故調査に協力したいと?」

章生あきお佐高さこうの言葉を繰り返した。

『事故現場をシミュレーションで再現できるそうだ。おまえ、いつの間に手を回してたんだ?』

「いや、協力を要請しようとは思っていましたが、まだ連絡は‥いったい誰が‥」

『本当か?全くどいつもこいつも勝手な奴ばかりだな』

佐高は不満げに言った。

「どいつもこいつもとは?」

『延期になってたモーターショーな、急遽きゅうきょ1週間後に開催される事になったそうだ。経産省のごり押しでな』

「延期?中止じゃなかったんですか‥1週間後なんて、まだ事故原因も分かっていないのに」

『経産省はすでに操縦ミスを既定路線きていろせんとして動いている。モーターショーを決行する事で事故の印象を払拭ふしょくしてしまいたいんだろう』

「もしモーターショーでまた事故が起こったら‥」

『今度こそ死人が出るかもしれんなあ‥いやDDRが協力するんだからそうはならんか、村主すぐり君?』

「室長‥嫌な言い方しますね」


DDR(ディープデータロード)社長室

章生が部屋に入ると、VRゴーグルを着けた少年がゲームに興じていた。

「社長、国土交通省の村主調査官をお連れしました」

秘書の言葉に少年(氷室純正ひむろじゅんせい)はゲームの手を休めることなく応じた、

「やあ、いらっしゃい。その辺に座っててください」

氷室の意外な若さに章生が戸惑とまどってっていると、氷室は立ち上がってVRゴーグルを外した。

「バトルボッツは素晴らしいね。これだけでもディープスペースをつくった甲斐かいがあるよ。ゲームは好きですか?」

「いえ、私はゲームは苦手で‥」

「それは残念、でもやってみたら案外あんがいハマるかも知れないよ」

「では今度是非ぜひ。それで、早速さっそくなんですが事故現場の再現シミュレーションにご協力いただけるというお話でしたが」

「イエス。で、具体的に何ををシミュレートすればいい?」

「あの、一つ聞きたいのですが、ディープスペースで人間の性格を再現する事は可能でしょうか?」

この章生の突拍子無くも思える質問に、氷室は興味深そうに答えた。

「なるほど、調査官はこの事故が偶発的なものじゃなく、何かを仕組んだ犯人のせいで起きたと考えている訳ですね」

「いや、犯人さがしをしたい訳ではないんですが。原因がドライバーのミスだと言うなら、ミスした原因を立証できなければフェアじゃない気がして‥」

「つまりディープスペース内に再現した人達から話を聞ければいいんでしょ。それは可能だよ、僕ならね」

「本当ですか!」

「人間はそれぞれ個性的に見えて、90パーセント以上同じ反応を示すんだ。後は残りをSNSの情報なんかで補完すれば、99パーセントその人の返答を再現できるはずさ」

「それは、会場のシミュレーションも含めてどのくらいの時間でできますか?」

「そうだなぁ‥2週間もあれば」

「2週間ですか‥もう少し早くなりませんか。実は6日後にモーターショーが再開催さいかいさいされる事になりまして、それまでに事故原因を究明きゅうめいしたいんです」

あせりが見える章生に対して、氷室は明るく返した、

「なあんだ、丁度ちょうど良かったじゃない」

「丁度いい?」

「モーターショーの現場をリアルタイムでシミュレーションに取り込めば、パラメータの設定にかかる時間を大幅に短縮できるよ」

「それでまた事故が起こったらどうするんですか」

「大丈夫さ。ディープスペース内のシステムタイムを少し早く進めれば、現実世界より先にシミュレーション上で事故が起きるから、現実世界の事故を回避することができる」

「そんなに上手く行くんでしょうか‥」

「上手く行くさ。こう見えても僕は天才なんだよ」

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