第21話

城杜しろもり港ポートタウン工事現場 PD開発テストチーム事務所

「事故をコンピューターシミュレーションで再現する‥」

佐伯さえき章生あきおの言葉を繰り返した。

「実際に当時の事故現場を再現するのは難しいでしょうが、開発テストに使っているシミュレータのデータを使えばコンピュータ上で事故現場を再現する事は可能なんじゃないでしょうか?」

「できない事はないでしょうけど‥当時の状況を忠実に再現しようと思ったら、既存のシミュレータではデータ不足なのは否めませんね。その道のプロに協力を依頼する必要はあると思います」

「城杜大の川田なら何とかできるんじゃないか?」

冬馬とうまが話に加わった。

「確かに川田教授なら。シミュレータをプログラミングしたのは教授のチームですし‥でも協力的かと言ったら‥」

佐伯は言いよどんだ。

「教授にはもう一度会わなければと思っていたので、その時に相談してみます」

「いや、俺たちも一緒に行った方がいいだろうな。な、佐伯さん」

「どうしたの冬馬、珍しく熱心じゃない」

「シミュレーションでも事故が起きれば、直哉は事故に無関係だったって証明できるんだろ?」

「あ、そうゆう事ね‥ならば、調査官、ぜひ私たちを連れて行ってください」


城杜大学 ロボット研究室

「おや?今日は随分と珍しい組み合わせで来たな」

川田教授は、章生、佐伯、冬馬の三人を見て言った。

「なんせ暇なんでね。事故原因が分かって105が使えるようにならない限りは」

冬馬が答える。

「それを私に言われてもどうにもならんが」

「あの、今日は川田教授にお願いがあって参りました」

章生が話を切り出した―


「‥という話なのですが」

「シミュレータで事故を再現‥なるほどね」

話を聞き終えた川田教授はため息混じりにつぶやいた。

「調査官は『バトルボッツ』をやられた事は?」

「PDシミュレータを転用したゲームだと聞いていますが、まだやった事は‥」

「確かにPDシミュレータと同じバーチャル空間『ディープスペース』で稼動しているゲームだが、登場するロボットはシミュレータのPDより高性能だ、何故なぜだと思う」

「それはゲーム用にアレンジしてあるからだろう?」

冬馬が答えると、川田は違うというふうに首を振った。

「そう単純な話でもない。バトルボッツだって使っている技術は現実に存在するものだ、それがこのゲームの売りでもあるからね。

では何が違うかと言えば、ゲームは理論上の設計値をそのまま使っているという点だ」

「設計値をそのまま?」

章生が首をかしげる。

「ゲームでは設計値と実効値に差が無い事を言っているのでしょう?現実世界では様々な要因で実効値は設計値より大幅に落ちてしまいますからね」

佐伯が説明すると、川田は大きくうなずいた。

「PDシミュレータでは製造工程で混じる不純物、工作機械の加工精度から使用環境のほこりまでサンプルを採取しパラメータとして取り込んでいるのだ、それがゲームとの決定的な違いだよ。事故をシミュレートするとしたら、それらのパラメータを全て設定し直さなければならん」

「でも一部のパラメータを変更すれば、残りのパラメータは使い回しがきく筈でしょう?」

佐伯の疑問に川田はすぐさま反論した。

「佐伯君、ロボット工学の風雲児と呼ばれた君もシミュレーションは素人だな。事故を再現しようとするなら事故現場の環境パラメータに全面変更しなければだめだ、しかもテスト環境とは比べ物にならないほどオブジェクト数は多い」

「つまり、教授には無理って事だ」

冬馬の挑発に川田は憮然ぶぜんとして答えた。

「無理ではない!基本パラメータさえそろえば‥そうだな、ディープスペースをつくったプログラマー氷室純正ひむろじゅんせいが基本パラメータを組むというなら、その他のパラメータセットアップは私がしてやってもいい。氷室純正が協力するというのならば、だが‥」


研究室を出ると佐伯が口を開いた、

「やっぱりねえ‥あの人はお金にならない面倒事めんどうごとは絶対にやらないから」

「くそっ、挑発すればやるって言うかと思ったんだけどな」

冬馬は悔しそうにつぶやいた。

「私から氷室さんに協力要請してみますよ」

と言った章生に佐伯が忠告する、

「川田教授の言葉はに受けない方がいいですよ。あの人は出来できないって言うのが大嫌いな人だから、氷室純正が協力する訳ないって分かってて言ってるんですよ」

「氷室純正と言ったらDDR社の社長ですよね、そんなに忙しい人なんですか?」

章生の問いに佐伯が答える、

「というか、あまり表に出ない人だそうですよ。大事な契約にも影武者を使うってうわさがあるくらいで」

「そうですか‥何とか一度、対面する機会が作れるといいんですが‥」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る