第20話

ハヤセモータース城杜しろもり工場 PD設計開発チーム事務所

章生あきお丹下たんげが黒崎を訪ねていた。

105いちまるごに何か問題でも見つかりましたか?」

「いいえ、今のところPD-105には何も」

「だから言ったろ、問題なんかある訳ないんだと」

「ただしアルファには問題があった様ですが‥」

「‥アルファ‥何だそれは?」

章生の言葉に黒崎は一瞬だけ戸惑った様に見えた。

「ご存知ぞんじ無いですか?黒崎さんがアルファのテストをしていたという証言もあるのですが」

「誰がそんな事を!アルファなんて聞いた事もない」

「そうでしょうとも、桐生森雄きりゅうもりおとあなたには接点がないですからな」

丹下が深く同意する様に言った。

「ああ、だから僕がアルファを知るはずがないんだ」

言ってから黒崎はシマッタという顔をした。

「‥いや、うわさぐらいは聞いたことがある。桐生博士が作った試作初号機がそんな名前だったと‥」

「非常に高性能だったそうで?」

章生はをかけた。

「違う、失敗作だったんだ‥という噂だ」

「そうですか、では私の聞き違いでしょう」

「アルファは失敗作で廃棄されたんだ、事故とは関係ないだろう」

「それでは話題を変えて、現行のPDOSはラムダですよね、これも桐生博士が開発したんですか?」

「ああそうだ、でもひどいOSだったよ。僕が3年かけてやっと今のラムダOSに作り変えたんだ」

「そうですか、それにしても不思議ですね、AIの第一人者と呼ばれた桐生博士がそんなOSを作るとは‥もしかしたらアルファこそが博士が作りたかったもので、失敗作というのは周囲の誤解かもしれない、なんて思いませんか?」

「思わないね。博士がどんなに天才でも、会社の要求するスペックを満たせなければ開発者としては失格だ。そうだろ?」


章生たちが去ったあと、黒崎はどこかに電話をかけた。

「僕だ、105の試作3号機、移送の準備を急がせたろ‥そうだ、もし調査官の目に留まって調査対象に追加されたら、事になるんだ」


帰りの車内

章生と丹下が話している。

「挑発に乗せられるとは、黒崎じんという人物は案外素直なのかもしれませんな」

「はい、明らかにアルファを知っているのに知らないと言い張るのは、逆説的にアルファが事故に関係していると言っている様なものですからね」

「さてと、次の一手はどうしますかな?」

「それに関しては、僕に一つ考えがあるんですよ‥」

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