強化衣装パワードドレス「暴走ロボット調査編」

第10話

調査３日目　ハヤセモータース城杜（しろもり）工場

再（ふたた）び工場を訪れた章生（あきお）と丹下（たんげ）は品質管理部の山際（やまぎわ）に案内され構内を歩いていた。

そこに政府の視察団が通りかかる。

「しかし、身長４メートルとは思ったより小さかったな、ガンダーＧは18メートルだぞ」

経産省の田沢副大臣はアニメオタク的な発言をした。

「一般道を使って搬送する事を考えたら、これくらいが適正なのでは？」

経産省の多部（たべ）事務次官は真っ当な意見を言った。

「いや、実戦を考えたらこれでも大きすぎる‥強化服（パワードスーツ）に比べた利点は何だ」

押し殺した様に話すその男は目つきが鋭く、鍛えた体がスーツ姿でも想像できるような、他の官僚とは明らかに異質な存在だった。

ハヤセモータース広報部長の鈴木は満面の作り笑顔で語り始めた。

「そうですね、強化服は人体の動きを直接増幅（ぞうふく）するわけですが、関節部が人体と被（かぶ）る関係上、強度やモーターパワーには限界があります。 その点、ＰＤは人体から関節部が完全に独立していますから、可動部の強度を上げられるだけでなく、駆動系もハイパワーにできるわけです。

その構造上、パワードスーツより大型ではありますが、市街地での運用も可能な大きさにまとめ上げる事ができたと自負しております‥」

「操縦性は担保されているのか？」

「それに関しましては最新の量子コンピュータによるＡＩによってドライバーの意志を推測し‥」

「パンフレットのキャッチコピーを聞きたい訳じゃない、ラムダＯＳが本当に使い物になるのかを聞いている」

「オイ、そこにいるのは国交省の事故調査官だろ！」

黙ってその場を去ろうとした章生を田沢は目ざとく見つけた。

「ああ、これは副大臣、視察お疲れ様です」

「調査はどうなっている？ロボット産業は日本の技術を世界に売り込む政策の柱なのだ。原因は操縦ミスなんだろう？早くそう書いた報告書を提出したまえ」

田沢は章生にプレッシャーを掛けた。

「多角的視点から鋭意調査中です」

章生は語気を強めて言った。

「ふん、国交省はのんびりしているな！」

嫌味を残して立ち去る田沢たち視察団、章生はその中の目つきの鋭い男と一瞬目が合った。

「モーターショーに合わせての視察だったんでしょうね、中止にすれば良かったのに」

視察団が見えなくなってから、章生は同行する山際に聞こえないくらいの小声で丹下に囁（ささや）いた。

「偶然ばったり出会うとはついてませんな」

「多分、偶然じゃないです、私に圧力をかけに来たんでしょう‥それよりも一人（ひとり）気になる人物がいたんですが」

「目つきの鋭い？私も只者ではないと感じましたが、あれは恐らく自衛官、それも実戦経験がありますな」

「かなり事情に詳しい感じでしたけど、ＰＤと自衛隊‥何だか嫌な感じです」

検査棟

品質管理部の一室を仮設のデータ解析ルームに使っている科捜研チームの樺島と合流する章生と丹下。

「事故機を分解してセンサー系の測定を行いましたが全て正常範囲でした。それからソフトウエア系ではシステムログとエラーログの解析を行いましたが、動作シーケンスの異常もプログラムのバグも発見できませんでした」

「そうですか‥」

明らかに落胆する章生。

「ＯＳのソースコードを調べる事はできませんか？」

「流石にソースコードとなると企業秘密ですから、余程の確証がないと調べるのは難しいんじゃないでしょうか」

「確証ですか‥」

検査部の山際と構内を歩いている章生と丹下。

トレーラーに積まれ工場から出荷されようとしている事故機とは色違いのＰＤ－１０５を目にする。

「これは？」

章生が山際に聞く、

「量産型のＰＤ－１０５です」

「えっ、もう量産型が作られていたんですか‥これはどこに運ばれるんですか？」

山際は少しばつが悪そうに答える、

「えっと、東京新宿のショールームです‥来週、発表会なので‥」

それを聞いた章生の中で、不信感はいよいよ確信へと変わったのだった。