第9話

ハヤセモータース PD開発課 ポートタウン工事現場事務所

「PDのOSを作った桐生森雄きりゅうもりおさんはどんな人物だったんでしょうか?」

章生あきおの質問に開発テストチーム主任の佐伯さえきは困惑顔で答えた、

「もちろん名前は知っていますけど、会ったことはないんです。3年前に今のチーム体制になった時、すでに桐生博士はいなかったもので‥」

「そうですか、では風間一男かざまいちおさんについては‥」

「一男さんと事故に何か関係があるのか!」

冬馬とうまが興奮したように話に割り込んだ。

甲斐かいさんは風間さんと面識があるんですか?」

「俺をPDのテストドライバーに誘ってくれたのは一男さんなんだ。また一緒に働けると思ってたのに‥」

「亡くなる前、最後に風間さんに会われたのはいつですか」

「3日前だったかな」

「その時、何か変わった様子はありませんでしたか」

「そういえば‥珍しく酔っぱらった一男さんが『俺の選択は間違っていた、お前は怪しい実験に誘われても絶対に従うんじゃないぞ』と言ってたな。何の話かさっぱりだったが」

「言われてみれば、なおチンも時たま黒崎に呼び出されてたわね『秘密実験さ』なんて冗談めかして言ってたけど‥」

「本当に秘密実験が行われていたと?」

4人は顔を見合わせた。

「アルファ‥」

冬馬が呟くように言った。

「アルファ?」

章生が繰り返すと、冬馬が話を続けた、

「思い出した、直哉なおやが言ってたんだ『アルファはすごい、世界を変える』って、俺が『ラムダじゃないのか』って言ったら『そうっすね』とか何とか歯切れの悪い感じだった」

「ラムダではなくアルファ‥もう一つのOS‥」

章生は目を閉じて高次こうじの話を思い出してみた、

(桐生博士は数種類のOSを開発した‥てっきり僕は新しいOSに切り替わっていったんだと思っていたけど、二つのOSが同時に開発されていたって事か‥しかもその一方が秘密にされていたとしたら、その目的は一体何なんだ‥)

「PD-105には最新のAIが搭載されているんですよね。例えば全ての操作をAIに任せてしまう事は出来ますか?」

章生の質問に佐伯が答える、

「そうですね‥105のAIなら可能だと思いますけど」

「それなら、故意にドライバーの操作を排除はいじょして、それをドライバーに気付かせない、なんて事は可能ですかね?」

「それは流石さすがにドライバーは気付くでしょう」

この佐伯の答を冬馬は否定した、

「どうかな‥ごく限定されたシチュエーションにいてなら案外あんがい判らないかもな‥動作パターンデータは普段から俺達がテストで蓄積ちくせきしてきたものなんだから‥」


帰りの車内

丹下の運転する車は城杜港再開発地区に隣接するモーターショーの会場、イベントホール『ドリーメッセ』の前を通りかかった。

「開発テストチームの事務所ってモーターショー会場に近いですよね‥」

章生の呟きに丹下が答えた、

「近くの会場を選んだんでしょう、城杜市でのモーターショー開催を提案したのはハヤセモーターですから‥それより、最後の話、私にはさっぱりだったんですが‥」

「モーターショーの時、普段と違うデモンストレーション仕様のプログラムを使ったんじゃないかって話です、どこのメーカーでも多かれ少なかれやっている事ではあるんですが、国交省の規定ではAIによる完全自動運転、つまりドライバーの操作を受け付けなくするような制御プログラムは認めていないんです」

「メーカーが不正なプログラムを使用したと?」

「PD-105は国交省に型式登録の申請中ですので、もしそうなら不正という事になりますね」

「それを隠すためにドライバーの操作ミスで事態を収拾しようとしているなら許せませんな」

「科捜研のエラーログ解析かいせきで何か分かるといいんですが‥」

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