第8話

帰りの車内

「気に食いませんな」

最初に口を開いたのは丹下たんげだった。

「はい、何だか決められた結論に導かれているような作為さくいを感じますね‥」

章生あきおは同意した。

その時、章生の携帯が鳴る、大学の同期で経済産業省に勤める新堂高次しんどうこうじからの電話だった。

『頼まれてた件、調べてやったぞ』

「サンキュー、それで」

『今回の事故以前にPD開発中の事故報告は1件も無かった』

「1件も?そうか‥」

『でも操縦中ではなかったが、3年前、テストドライバーの風間一男かざまいちおが死亡してるんだ。死因は心臓麻痺、といってもはっきりした原因は分からなかったらしい』

「それ、気になるな‥」

『しかも風間一男は亡くなる半年前、一週間ほど休暇を取って海外旅行に行き、そのあと人が変わってしまったようだったと』

「‥一体、何があったんだろう」

『何かあったんだろうな。ああ、それから、PDのOSを開発したのは黒崎迅くろさきじんじゃなかった。桐生森雄きりゅうもりおという、AIコンピュータの研究では世界でも名の知られた人物だそうだ』

「桐生森雄‥その人、今はPD開発に携わっていないのか?」

『プロジェクト発足時に城杜しろもり大学から招かれ、以来いらい設計チームのリーダーだった桐生森雄は数種類のOSを開発したが、3年前、黒崎が入社するのと入れ替わるように会社を辞めている。そして入社直後の黒崎がいきなり設計開発チームのリーダーに抜擢ばってきされた、だから黒崎は実質、OSのバージョンアップしかやってない』

「それなら桐生さんにも話を聞かないと」

『それが行方不明なんだよ。失踪したんだ、3年前にな』

「失踪?3年前って会社を辞めた直後じゃないか、どうして」

『それは知らん、自分で調べるんだな』

「なんだよ不親切だな‥それにしても謎だらけじゃないか、よく誰も問題にしなかったもんだな」

経産省うちにとっては技術的問題でさえなければ、問題無いって事と扱いは同じだからな』

「開発者の失踪しっそうは十分問題だと思うけど‥」

『そう思ったから俺が協力してやってるんだろ。ところで、一言忠告しておくが、経産省と政府のロボット推進部会は今回の事故を、調査結果の如何いかんに関わらずドライバーの操作ミスで決着付けようとしている、気を付けろよ』

「やっぱりそうか‥高次、僕にそんな事教えて大丈夫なのか?」

『俺は中立な立場で事実を伝えただけさ。それを使うかどうかはお前次第だ』


電話を切った章生は丹下に向き直った。

「丹下さん、もう一度、城杜港のPD開発テストチームに行ってもらえますか」

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