第7話

調査2日目、ハヤセモータース城杜しろもり工場

事故機の分解調査が行われている工場は、運用テストが行われている臨海りんかい地区の工事現場とは逆に城杜市山側の丘陵きゅうりょう地帯にある。

丹下たんげの運転する車の助手席、章生あきおの視線の先に建つ巨大な工場は周りの田園風景になじむことのない異様な輝きを放っていた。

「ハヤセモータース品質管理部の山際やまぎわです。工場内の案内をさせていただきます」

出迎えた社員はそう名乗ると、二人を連れて検査棟に向かった。

その経路にある展示コーナーを通る章生と丹下。通路の両側にはハヤセモータース歴代の名車や、PDの初期モデルからPD-105に至るまでの実物大模型などが展示されていた。

「これは懐かしい。初代セレカですよ、私が乗っていた車です」

丹下が展示車のクーペを指して言った。

「へえ、速そうな車ですね。」

章生が相槌を打つ。

「まあ、私も若い頃は‥」

と自慢げに言いかけてから気恥ずかしそうに言葉をにごした丹下は、PD-101の模型に近づいて言った。

「ほう、これが初代PDですか‥こうして並べてみると段々と人に似てきているようですな」

「段々人に似てきている‥か」

並べられたPDシリーズを目で追う章生。その中で深い赤色に塗装されたPDに目を止めた。

「これはかっこいいですね、開発中の機種ですか?」

「いえ、これは開発初期に作られたデザインコンセプトモデル、ラムダの模型です」

ハヤセの社員が答える。

「ラムダと言ったら、PD-105のOSと同じ名前ですね」

「はい、ラムダOSは、このラムダにちなんで名づけられたそうです」


PD-105が置かれた検査棟の倉庫では、一足先に到着していた科学捜査研究所の樺島智治かばしまともはるが待っていた。

「これは分解測定したセンサー出力表です。それからこれはシステムログとエラーログ。これがPD側、こっちはサーバ側のです」

樺島が書類の束を章生に差し出す。

「仕事が速いですね、ありがたいです。それで、何か異常な数値は?」

「詳細な解析はこれからですが、一見したところでは異常な数値は見当たりませんでした」

「だから言ったろう!システムに問題なんかあるわけがないんだ」

それまで忙しそうに動き回っていた黒崎くろさきが強引に会話に割って入った。

「あなたは?」

「設計開発チーム主任の黒崎じんだ」

「紹介が遅れました、国土交通省事故調査室の村主すぐり章生です。それで、システムに問題があるわけがないとはどういう事ですか?」

「前日も当日もPD-105の動作チェックは完璧にやって異常はなかった。原因はドライバーの操作ミス‥それしか考えられないって事さ」

黒崎のこの言葉に、章生は強い違和感を覚えた。

「システムに問題があるとは一言も言っていませんが‥それとも何かそう思わせる要因でも?」

「そ、それならいいんだ‥」

それまで自信に満ちていた黒崎の表情が一転、そわそわと落ち着かない様子になった。

章生が畳み掛ける、

「事故の日、ドライバーに小久保直哉こくぼなおやさんを指名したのはあなただそうですね、なぜですか?」

「PDが画期的だと言われるのはなぜだと思う?それは高度なAI支援システムによってドライバーの操縦負荷を最小限にしているからだ。

ファーストドライバーの甲斐冬馬は操縦がうまいかもしれないが、肝心の支援システムがオフになるマニュアルモードばかり使っている変人なのさ。だから一般的なデモンストレーションには使えないと判断した、それに問題があるのかな?」

「しかし、事故の原因が操縦ミスだというなら、その選択は間違っていたということになりますね」

図星を指された黒崎は激昂げきこうした。

「君は僕を怒らせたいのか!」

「いえ、あなたは小久保さんを信頼してたのでしょう?それなのに操作ミスだと安直に決め付けてしまうのはどうしてだろうと思ったもので‥」

「人間はミスをする、機械はミスをしない、常識だろう?」

「機械を造るのも人間なのですが‥とにかく、頂いたデータを子細に検討させていただきますので‥」

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