第4話

国土交通省事故調査委員会車両事故調査室

事故発生の連絡を受け、室長の佐高さこうは調査官の村主章生すぐりあきおを呼んだ。

「村主君、城杜しろもり市で開催中のモーターショーでロボットの暴走事故が起きた。明日、現地に飛んでくれ」

「モーターショーで事故!被害者数は?」

「ロボットの運転手が重症、その他は負傷者12人でいずれも軽傷、死亡者はゼロだ」

「待ってください、それは国交省が動く案件ではないのでは?」

「それがそうも行かん。そのロボットは近々一般車両として認可が下りる事になっていてね。国交省としてはこのまま認可していいものかどうか、判断する上で原因をはっきりさせる必要があるんだ」

「そのロボットのメーカーって‥」

「ハヤセモーターのPD-105だ」

「やっぱり‥ハヤセのPDと言ったら経産省きもいりのプロジェクトですよね、何だか微妙な立場になりそうですけど‥」

「まあ死者も出てない事だし、適当にやってくれたまえ」



翌日、城杜市に向かう新幹線の中

章生は熱心にPDに関する資料を読んでいた。


―PDはパワードドレス(強化衣装)の略で、量産型二足歩行ロボットとしては世界初の人間搭乗を実現している。


スペック

全高:約4メートル、重量:約2.5トン、外装:カーボングラファイト、フレーム:チタン合金、動力源:ネオ燃料電池


開発年表

2015年、自動車メーカーのハヤセモータースが『人間搭乗型二足歩行作業ロボット』の開発を発表。これはPDの先行プロジェクトである。その開発拠点は国内最大の自動車工場がある城杜県城杜市に置かれれた。

2017年、建設現場向けのモーターワーカーシリーズ1号機となるMWー101を発表。

2019年、より人間に近い動きを目指し『人間搭乗型汎用二足歩行ロボット』パワードドレスの開発を発表。同時に国立城杜大学、経済産業省との技術交流も発表され産学官連携プロジェクトが発足された。

2020年、実験機PD-101発表。

2021年、実験機MW-202発表。

2022年、実用化に向けた実証実験の場所として城杜港再開発地区『ポートタウン』の建設現場を使用する事が決定。建設現場内に開発テストチームが置かれる。更に実験機PD-103を発表。

追記:同年、城杜大学主導でPD-103の開発データを参考にしたオンラインゲーム『バトルボッツ』のサービス提供が始まる。

2023年、量産機PD-105開発始動。実験機MW-303発表。

以降、現在まで市販を目指した開発が続けられている。


PDの開発コンセプト

『限界を超えた領域での活動を可能にする高機動ビークル』その意味する所は、高所作業、深海作業、化学工場火災、大規模森林火災、原発の解体さらには宇宙基地建設といった生身の人間にとって危険がともなう場所での作業を安全に行う為のパワーアシスト付き防護服であり移動手段である。


その他の特徴

最新の量子コンピュータを使ったAIを搭載している。これによって、地上建設現場専用のMWシリーズが姿勢制御のみをコンピュータに頼っているのに対し、汎用性を追求するPDシリーズならではの様々なシチュエーションにおける操縦支援のみならず、危険回避行動の自動化も達成している―


「うーん、機械トラブルに人為的じんいてきミス、更にAIコンピュータか‥」

章生はため息まじりにつぶやいた。

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