第3話

ロボットモーターショー2025開幕日

城杜港しろもりこうポートタウンにあるイベントホール『ドリーメッセ』は入場者でごった返していた。


「国内外のロボットメーカーが一同に介して行われる初の展示会、ロボットモーターショー2025が開幕しました」

会場内ではテレビアナウンサーがニュース素材を収録していた。

「今回最大の話題は、何と言っても世界初の量産型有人二足歩行ロボット、ハヤセモータースPD-105と、世界最先端の無人自動制御二足歩行ロボット、ホンマ技研ティーモによるデモンストレーションバトルでしょう」


ハヤセモータースのブースでは地元出身のアイドルがTV中継を始めた所だった。

「あなたの心をハッキングしちゃうぞ!SSコンプレックスの新谷しんたにろんりです。

今日は城杜市で開催中のロボットモーターショー2025におじゃましてます。

スタジオのみなさん見えますか、これが話題のPD-105です!かっこいいですよね。そしてこちらにはドライバーの小久保こくぼさんに来てもらってます」

ド緊張した直哉なおやがフレームインする、

「ド、ドライバーの小久保直哉です、よ、よろしくお願いします‥」

「PD-105は世界中から注目されていますけど、特にここを見てほしいっていうポイントはどこですか?」

「は、はい、い、いつもTVで見てます」

「はあ?」

「あ、あの大好きですSSコンプレックス。ぼ、僕、大ファンなんです」

「はあ、ありがとうございます‥それでPD-105の機動性ですけど‥」

(めんどくさっ)アイドルあるあるな会話を適当に流しながら、ろんりは心の中で舌打ちした。その時、突然ろんりを形容しがたい不安感が襲った。(何?‥この感じ‥胸がざわざわする‥)


甲斐冬馬かいとうまは屋外展示場で工事業者に土木作業用ロボットMW-303のデモンストレーションを行っていた。

1回目のデモを終えて休憩していた冬馬のもとに会場を中抜けして来た佐伯美樹さえきよしきがやってくる。

「佐伯さん、105いちまるごの準備はいいのか?」

「もう万全、後は本番を待つのみよ‥悪いわね、担当外の事させちゃって」

「いや、完全手動操作のコイツの方が俺の性に合ってるのかもな」

強がる冬馬。

「まあ黒崎の言いたい事も分かるけどさ、言い方ってものがあるわよね」

「それ、なぐさめになってないぜ」

「とにかく今回は直チンに花を持たせてやってって事よ」



3時間後、会場内特設ステージ、ハヤセモータースVSホンマ技研『ロボットデモンストレーションバトル』


観客席は立ち見客も出るほど盛況だった。ステージ裏では新谷ろんりが女性アナウンサーと並んでこのバトルを実況していた。

「どっちが勝つんでしょうか、楽しみですね」

女性リポーターの当たり障りのない言葉に対し、ろんりはロボットオタクっぽい答えを返す、

「パワーならPD-105、速さなら軽量なティーモ、接戦になるんじゃないでしょうか」


しかし、予想に反して始まってすぐに試合の結果は見えた、ハヤセのPD-105が格闘家のような素早い動きでホンマのティーモを圧倒したのだ。

小さくガッツポーズをする佐伯と苦虫を嚙み潰したようなホンマのエンジニア達。


「以前、動画で見た時とは動きが全然違いますね。105の進歩、ハンパないです」

これは言い訳ではなく、ろんりの実感だった。

『ロンリ!ミツケタ!』

(えっ?)突然、頭の中に響いた声に驚いてろんりは周囲を見回した。


遂にティーモの腕をねじり上げ破壊するPD-105。

「やりすぎよ直チン!」

通信で直哉に呼びかける佐伯、しかし返答はない。

PD-105は向きを変えるとステージ裏に向かって歩き出した。

観客達は演出なのかハプニングなのか計りかねて、ざわつき出した。

『佐伯さん、何か起こったか?』

事態を察したかのように、屋外でデモンストレーションを続けていた冬馬の声がスピーカーから響いた。

105いちまるごが予定外の行動を‥直弥からの応答がないのよ。」

困惑した佐伯の声が返ってくる。

『じゃあ俺が303さんまるさんで足止めするから、とにかく直弥を呼び続けてくれ。』

「土木作業用の303じゃ105を止めるのは無理よ!」

心配そうな佐伯の言葉に、冬馬はわざと気取った声で言った、

『俺が乗ってるんだぜ、何とかするさ。』


場内アナウンス、

『トラブルが発生しました。危険ですのでPDへは近寄らず、係員の指示に従ってすみやかに避難して下さい。』

観客達がてんでんばらばらに逃げ惑っている。


PD-105はステージセットの支柱に手を掛け、それをなぎ倒した。

照明が吊るされたセットの骨組みが崩れ落ち、ランプの破片が飛び散る。

会場は人々の悲鳴に包まれた。


崩れたセットの残骸からPD-105が這い出し、再び歩を進め始める。

その先に新谷ろんりが立っていた。

「ろんりさん早く逃げないと、ろんりさん!」

必死に彼女の手を引くマネージャー。しかし、彼女は魂が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。


PD-105がろんりを掴もうとするように手を伸ばす。

その時、MWー303が側面から105を突き飛ばした。

105はバランスを崩し倒れこみそうになるが、寸前で踏ん張り、姿勢を立て直す。

「あの反応速度‥本当に直弥が動かしてるのか?」

予想を超える105の機敏な動きに、冬馬は正直あせった。

PD-105はMWー303に向き直ると、ダッシュで突っ込んできた。

「よし、速度ではかなわないが、寄ってくるなら勝ち目はある‥」

一度のチャンスに冬馬は賭けた。

303のコクピットめがけてチョップを入れる105。

それを冬馬は、機体バランスをわざと崩す事で避ける。

倒れながら105を抱え込み、動きを封じる事に成功した。


駄々っ子のように腕をバタつかせ、303のボディを殴る105。しかしボディ剛性は303の方が上だ。

ルーフハッチを開け、身を乗り出す冬馬。

「直弥!聞こえるか、直弥!」

風防ガラス越しに見える直弥は気を失っている。

ポケットを探って携帯をつかみだす冬馬。軽く舌打ちした後、105の風防ガラスに投げ付けた。

「直弥、目を覚ませ!」

カーンと携帯のぶつかる音が響く。

ハッと目を開ける直弥、あわてて操縦レバーを操作する。

「コントロールが利かないっす!」

スピーカーから佐伯の指示が聞こえる。

『緊急停止ボタンよ!』

指示に従ってカバーで守られたボタンを押し割る直弥。

電源が強制切断されたPD-105は、全てのモニターやランプが消え完全に停止した。


その様子を見ていた黒崎迅くろさきじんは震える口でつぶやいた。

「僕のせいじゃない‥設計は完璧だったんだ‥僕は関係ない‥」

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