第9話 日常の光と闇

 今日もいつも通りに朝起きて、いつも通りに朝ごはんを食べた。

 いつもと違うことといったら、昨日の夜は少し夜更かしをして、寝坊しそうになったくらいーーそれほど普通のいつもの日常、のはず。

 ...でも、やはり、少しだけ気になっていることといったら、時の鏡坂探偵(やっぱりこっちの呼び方がしっくりくる!)が言っていたこと。


 光ちゃん...。

 もう死んでいるかもしれないと思うと胸の奥がくるしくなる。感情の波が押し寄せて押し潰す。青や赤や緑。それを必死に白で塗りつぶして、頭の中を真っ白にしょうと勤めるけど、また、色の波が私を飲み込む。

 昨日の夜は、光ちゃんのことを考えて眠れなかった。

 私は頭を切り替えて研究所へと向かった。またいつも通りに。


 「あっ、陽菜乃。遅かったじゃない。今日から私もよろしくね!」


 当たり前のように光ちゃんがいた。

 「光ちゃん...?」

 「何ぼーっとしてるの?...あれっ?お兄ちゃんから私が来るって聴かなかった?」

 たしかに光ちゃんの色を感じる。たしかに黒百くんにもそう聴いていた。だけど...。

 「.....?」

 時の鏡坂探偵と宇宙人の速人くんがあんなにも念を押していた。だから正直、もう光ちゃんはこの世にはいないものだと勝手に思っていたーーだけど、今、目の前に光ちゃんはいる!

 「光ちゃん?...光ちゃんだよね!?」

 「何、どうしたの?...あっ、私ちょっと風邪引いちゃて声が変かな?」

 「ううん、光ちゃんは光ちゃんだよ!」

 「何か朝からテンション高いわね。」

 やっぱり光ちゃんだ!ちゃっかりオレンジの香水まで付けている!兄妹揃って、己の身で商品PRをしている。さすが、内木田兄妹!

 「黒百くんは今日は来てる?」

 「今日はお兄ちゃんはお休み。そのかわり私が働くからよろしく!」

 光ちゃんの元気いっぱいな色を感じた。

 いつも通りの日常にそっと胸を撫で下ろした。



 「はぁ~~~~~...。」

 「どうした?陽香?」

 「いや、何でもない。ちょっと疲れちゃって...。」


 ーー私は萌黄色陽香。夜間学校に通う高校二年生。それと同時に〈未来科学研究所〉っていう怪しい場所にも通っている。(てか奴隷!)

 最近は未研(未来科学研究所)に運ばれてくる怪獣の量が日に日に増していっている。もう、さいっあく。

 「陽香まだあそこ行ってんの?大変だね~!私、化粧崩れる仕事だけは無理だわ~」

 それはアタシだって思うけどね~

 「何で陽香あそこ通ってんの?そんな大変なら別のとこ行けばいいのに~」

 何であんな仕事してんだろ?

 すると、コツン、と何かが足に当たった。

 「あっ、すいません!足元の消しゴム拾ってもらえますか?」

 「あ、うんっ。」

 消しゴムを拾って隣の席の生徒に渡した。

 「あれっ?あなた初めましてだよね?」

 「あっ、はい!今日からです!向甲水轟(むこうみずとどろき)って言います!よろしく!」

 「あ、どうも。私は萌黄色陽香。」

 「私は金山静香!よろしく~!」

 向甲水くんは軽く会釈して、手元の教科書に目を向けた。

 静香が小声で私に話しかける。

 「めっちゃかっこいいじゃん!俳優みたい!」

 「うん、そうだね。」

 「このクラスでラッキー!...って、陽香!?あんたが喜ばないなんてやっぱ変だよ!?今日はゆっくり休みな?ね?」

 たしたにいつもの私なら喜ぶよな~。何か今日は変だな~、、、。やっぱり疲れてるのか...。はぁ~、頭もぼぉ~とするし。...あれっ?ほんとに眠たい。もう、だめ...。寝よ。



 「萌黄色さん!起きて下さい!」

 

 誰かが私の名前を呼ぶ。


 「萌黄色さん!萌黄色さん!!」


 目を開けた。どれくらい寝てたんだろう。...しまった~、先生に起こられる~。

 私を呼ぶ方向を向いたら、隣の席の向甲水くんだった。

 あれっ?先生じゃないんだ。と思って周りを見たら、私と向甲水くん以外は全員眠っていた。

 「萌黄色さん!良かった!僕も眠ってたみたいで、起きたら全員眠ってて...。」

 向甲水くんの安堵した表情と、何が起こっているのか分からない混乱の表情が交互に訪れる。

 それが私を不安にする。

 ーーいつもとは違う、日常が崩れる音がした。

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