第7話 時の鏡坂探偵事務所
私の目の前には二人の男性がいる。
一人は、私に話しかけてきた人物。
正確に表現すると男性ではない。男性どころか、私には人と思えなかった。
その人物に話しかけられた時に思わず触れてしまったのだ。そのぶよぶよの外郭を。
思わず、
「ぎゃ~~~~!!!」と、宇宙人を見たかのようなリアクションをしてしまったのだが、そのリアクションは遠からずなようだった。いや、むしろピンポイントで正解だった。
「急に話しかけてごめんなさい。この外見でも大丈夫だと思ったんだけど、まさか触ってくるなんて。...僕はいつもこの宇宙人のマスクをかぶってるんだ。」
私に話しかけてきた人物は宇宙人、のマスクを被った少年だった。私が触れたのはゴム製のマスクの感触だった。
声がマスクでこもっている上に、匂いも分からない。色が探れない人は何を考えているか解らず、私にとっては、まんま宇宙人なのだ。
その宇宙人の少年は室内をぐるぐる走り回っている。もうかれこれ二時間...。
元気すぎるだろ少年!(宇宙人!)
ふかふかのソファーに座りながら、出されたコーヒーを一口飲んだ。もう三杯目のコーヒーなので何回目の一口だろう。
そして、もう一人の人物の二時間にも及ぶ長電話もようやく終わったようだ。
客人を目の前に電話しすぎるだろ!
「んっんー!いやーすまないね!依頼内容が思ったよりも複雑でね!長く待たせてしまった!」
宇宙人の少年にも強烈なファーストインパクトを受けたが、この人物も中々に強烈なオーラを感じる...。
「まさか速人が初対面の人に話しかけるとはね!不思議なこともあるものだね!だが、そんな不可思議を解決するのが、私!時の鏡坂探偵事務所、所長!時の鏡坂真一文字!以後、お見知りおきを!」
「はぁ~...。」
私は時の鏡坂探偵事務所なる場所に招かれていた。招かれた流れはよく思い出せない。気がついたら、ここに連れてこられていた。宇宙人に。
小さな子供には気をつけないと...。ーー子供に誘拐され過ぎるだろ、私!
「私がお待たせし過ぎてしまってもう夕食の時間になってしまったね!近くに行きつけの喫茶店があるんだ!そこのカレーが絶品でね!さぁ、行こう!」
と、時の鏡坂真一文字探偵は言った。
「えっ、ちょっと!?」
「さぁーさぁー早く早く!」
探偵は強引に私の手を取り、(というか私をおぶって)、最速で事件を解決する探偵の如く、はたまた、まるで誘拐犯が少女をさらうかのように颯爽と喫茶店へと向かった。
喫茶店に着いてから、それぞれ注文をした。
私と時の鏡坂探偵は、絶品カレーを注文し、宇宙人は、ミートパスタとクリームソーダを注文した。
宇宙人くんは相変わらず、席に着いた後でもテーブルの下で足踏みしている。
「速人、お店の中では落ち着きなさい。他のお客さんに迷惑がかかるだろう。」
「はい!」
速人(はやと)という名前の宇宙人くんは返事をすると、マスクをめくり、先に来たクリームソーダをストローで飲んだ。
宇宙人の格好で緑色の飲み物を管から啜るような見た目は、宇宙人としてのリアリティが出ているだろう。
「さてと!改めまして、私が時の鏡坂真一文字(ときのかがみざかまいちもんじ)と申します!」
「あっ、はい!私は色彩陽菜乃です!よろしくお願いします!」
「それでは、料理が来るまで話そうか!ご依頼ですよね?」
ご依頼?ご依頼なんて私したっけ?...一方的に連れてこられただけだと思うけど。
「おやおや?色彩陽菜乃さんは内木田黒百くんのことを探っているのだろう?」
たしかにそうだけど...。私はともかく、何で黒百くんの名前まで知っているんだ?
「内木田黒百くん、というより内木田家に関しては別件での調査があってね!んっんー!悪いけどこの内容はトップシークレットだ!言えないよ!申し訳ない!」
軽く頭を下げた様子の時の鏡坂真一文字。
「いえいえ、...あぁー、だから名前が分かっていたんですね!」
「いや、この街の住民全ての情報は把握しているからね!もちろん、色彩陽菜乃さんのことも!」
「......えぇーーー!?私の個人情報も!?個人情報保護法わぁ!?プライバシーの侵害じゃないの!?」
「私は私の街の住人の平和を勝手に守っているだけです!なので、お礼はいいですよ!...あっ!色彩陽菜乃さんは喫茶店に来たらトイレに近い席がよかったんですよね!移りますか?それと、ソファー席があって、少し薄暗く、レトロなBGmがかかっている喫茶店が好みという情報は事前に把握済みです!ここは色彩陽菜乃さんにぴったりな喫茶店だと思いまして!」
あっさりとそんなことを言う時の鏡坂探偵だ。
もはや探偵というよりストーカーの域なのではないかーー街の住民の平和を脅かしているのは、この、時の鏡坂真一文字なのではないか...。
「あっ!その使用済みのおしぼり貰ってもいいですか?念のために!」
何の念のためなの?やっぱりストーカー?あなた、私の専属のストーカー?
「要するに何が言いたいかと申しますと、私のところにはさまざまな情報が集まってきます!」
若干引き気味に話しを聴いている(というよりストーカーを目の前にして恐怖している)と突然、時の鏡坂探偵は切り出した。
「んっんー!単刀直入に申しますと!...もう、内木田光ちゃんは亡くなっているということです!」
突然に、時が止まったかのように。
時の鏡坂真一文字は、そう言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます